トーストに塗って食べたり、料理の隠し味に使ったり、食卓で愛され続けている甘くて栄養価も高い「ハチミツ」は、ミツバチと養蜂家の手によって作られています。
ところで、ハチミツがどのように作られているかご存知でしょうか? ミツバチが花の蜜を採ってきて、巣に貯めて……。その後はどうでしょう?
そこで今回は、ミツバチと養蜂家がどのようにしてハチミツを作っているのかをご紹介します。
日本の養蜂事情
ハチミツ作りの主役であるミツバチですが、明治時代以前の日本では、在来種で野生種のニホンミツバチを利用する養蜂家がほとんどでした。明治時代にセイヨウミツバチが輸入されると、主にセイヨウミツバチが養蜂に利用されるようになりました。セイヨウミツバチは、ニホンミツバチより少し大きく、飛ぶ距離が長いことがその理由です。
日本でのミツバチの飼育方法は、主に二つに分けられます。
養蜂家が花の開花に合わせてミツバチと共に日本の南から北へと移動する「転飼養蜂」と、巣箱を移動させずに同じところで飼育する「定飼養蜂」です。近年では、蜜源植物*¹の減少や移動コストの増加を理由に転飼養蜂は減少しており、定飼養蜂が増加しています。
*¹蜜源植物:ミツバチが花の蜜や花粉を集めるために利用する植物のこと
また、近年では養蜂ブームが世界各地で起こっています。日本でのミツバチの飼育戸数は令和6年には12,061戸で、平成24年の5,934戸と比べると増加しています。
一方、蜂群数*²は、令和6年で約236,000群です。平成24年の蜂群数は約184,000群でしたが、飼育戸数の増加率を考えるとあまり増えていません。これは、ミツバチを10群以下の小規模で、趣味として飼育する人が増えていることが理由です。
*²蜂群数:ミツバチの飼育単位。巣箱1つが1蜂群
巣の中にはどんなミツバチがいるの?
女王蜂
巣箱の中で最も大きいミツバチです。雄蜂と交尾して卵を産むことが仕事で、多いときには1日でおよそ1,000個の卵を産み、それ以外のことはしません。ローヤルゼリーという栄養分が豊かなものを生涯食べ続けます。
働き蜂
働き蜂は全てメスです。若い働き蜂は、巣の掃除や育児、巣作りなどをします。ベテランの働き蜂は巣の外に飛び立ち、花の蜜や花粉を集めます。

雄蜂
他の巣の女王蜂と交尾することが仕事で、交尾が成功すると死んでしまいます。また、秋頃になると、残った雄蜂は働き蜂に巣から追い出されてしまいます。
針を持っているのはメスだけなので、雄蜂は刺しません。

ミツバチの活動
ミツバチは、花の蜜以外にも花粉を集めています。巣箱の中の六角形の巣房に貯えられた花の蜜(ハチミツ)と花粉は、ミツバチの食料となりますが、この2つの役割は少し異なります。ハチミツは、ブドウ糖と果糖が主成分であり、ミツバチたちのエネルギーの元になっています。花粉はタンパク質が含まれており、ビタミンも豊富です。人間の食べ物で例えると、ハチミツはお米、花粉はお肉や野菜にあたります。
ミツバチは多種多様な花から花粉を集めてきますが、その種類が豊富だと栄養価も高く、より元気で健康なミツバチになります。
養蜂家の1年間
春になると、女王蜂の産卵が始まります。しかし、この時期は花があまり咲いていないので餌がありません。そのため、砂糖を溶かした糖液や代用花粉を与えてミツバチを増やしていきます。ミツバチが増えたら巣箱に継箱(つぎばこ)*³を乗せて2段にします。
*³継箱:ミツバチの群れが大きくなったときに巣箱の上に重ねて使用する箱。養蜂家によっては3段以上にする場合もある

養蜂家は、花が咲き始める時期を予想して、ミツバチが採蜜を行う前に巣に貯められた糖液などを巣からきれいに取り除きます。そして、花が咲くとミツバチの本格的な採蜜が始まります。
近頃は、全国的に花の開花も早くなってきており、予想が難しい状況です。日本列島は南北に長いので、地域によって時期が少し変わりますが、4月下旬から10月頃まで採蜜が続くので、この期間は養蜂家にとって忙しい時期になります。
採蜜が終わる時期からは、スズメバチの対策が必要になります。対策をしないと、巣箱内のミツバチを全滅させられることがあるため、駆除器の設置などをしてミツバチを守ります。
養蜂家とミツバチの外敵は、スズメバチだけではありません。巣箱を設置する場所は人里離れた山や森の中が多く、クマや野生動物が巣箱を狙ってやってきます。そのため、巣箱の周りに電気柵を張り、巣箱が襲われることを防ぎます。
真夏や、採蜜が終わる秋頃には花が少ない状態になるので、ミツバチに餌を与え、病気の予防や害虫の駆除を行いながら越冬準備が始まります。養蜂家は、巣箱や道具の修理・清掃、巣枠の製造をしながら冬を過ごしています。

国産ハチミツはどのくらい作られているの?
ハチミツの国内流通量は、海外からの輸入が約94パーセント、残りの約6パーセントが国内生産です。
海外のハチミツが安価なことや、国内ハチミツの生産量が少なく、高価なことが理由としてあげられます。また、日本では蜜源植物が減少し続けていることもあり、すぐに生産量を増やすということが難しい状況です。昨今では、養蜂家が蜜源植物を植える植樹活動などに取り組んでいます。
ハチミツが出来るまで
ミツバチの働き
1.ベテラン働き蜂が蜜源植物を探し、見つけると巣箱の仲間にその花の場所をダンスで知らせます。
2. 仲間の働き蜂が蜜源植物へ飛んでいきます。
3. 花の蜜を吸って、働き蜂の胃の一部である「蜜胃」と呼ばれるところに一時的に貯えられます。
4. 巣に戻って、別の働き蜂に運んできた花の蜜を口移しします。このときに働き蜂の体内の酵素によって、ショ糖という花の蜜の甘味成分がブドウ糖と果糖に分解されます。
5. 巣房に蜜を貯めます。蜜を受け取った働き蜂は、巣房とよばれる六角形の部屋に蜜を貯め、羽をはばたかせて水分を飛ばします。蜜が熟成し、ミツバチの腹部から分泌される蜜ろうで蓋(蜜蓋)をすれば、ハチミツの完成です。

養蜂家の働き
1. ハチミツが貯められている巣板(板状のものに作られた巣房の集合体)からハチミツを取り出せるように、蜜刀で蜜蓋を切ります。
2. 遠心分離機で、蓋を切った巣板からハチミツを取り出します。
3. 取り出す際に混入した蜜蓋や巣のかけらなどの不純物をろ過すると、きれいなハチミツになります。
4. 煮沸消毒をしたビンなどに、ろ過したハチミツを入れて完成です。

家にあるハチミツはどうして固まるの?
ハチミツに含まれる花粉などを核として、ブドウ糖が結晶化することによって固まります。そのため、花粉やブドウ糖を多く含むハチミツは固まりやすい特徴があります。
例えば、みかんやナタネなどのハチミツは固まりやすいです。一方で、アカシア蜜は固まりづらいハチミツです。
固まってしまった場合は、50~60度のお湯でゆっくり湯煎すれば元の液体に戻り、品質や栄養価に問題はありません。
ハチミツだけじゃない? 養蜂家の大切な仕事
養蜂家は、ハチミツ生産以外にも多くの人々に関わる大切な仕事をしています。それは、農家に販売する花粉交配用蜜蜂の生産です。皆さんが食べている野菜や果物などの多くは、ミツバチなどの送粉昆虫*⁴が花粉を運ぶことで受粉し、実になっています。
*⁴送粉昆虫:植物の花粉を運んで受粉を助ける昆虫
果実だけではなく、野菜の種子生産などにもミツバチは利用されており、セイヨウミツバチの経済価値は作物栽培において約1,800億円という推計もあるほどです。日本でミツバチが受粉している主な果物と野菜は、イチゴやメロン、スイカ、カキ、モモ、レモン、リンゴ、みかん、サクランボ、キュウリ、タマネギ、ソバなど、多岐にわたります。
ミツバチが送粉している作物を考えると、「ミツバチが絶滅すると、人類も4年以内に滅びる」という有名な文句も決して大げさな話ではないのかもしれません。
人間にとっても有益なミツバチを含む送粉昆虫のためにも、庭先や身近なところから蜜源植物となるような花や樹木を植えてみませんか? そうするとミツバチ以外の送粉昆虫も喜び、地球温暖化対策にも繋がります。
最後に、仲間のために働くミツバチを街中で見かけた際には暖かく見守ってあげてください。
【文・写真】
一般社団法人 日本養蜂協会
日本養蜂協会は、1948年に設立、養蜂関連産業の振興に寄与することなどを目的に一般社団法人として活動している。
47都道府県にひとつの会員団体があり、協会の目的に賛同した養蜂家が会員団体に入会している。(2024年9月1日現在、入会している養蜂家は2,566名)
ホームページ:https://www.beekeeping.or.jp/
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