はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第23回】トカラハブProtobothrops tokarensis(Nagai, 1928)

さまざまな伝説と大自然が広がるトカラ列島には、魅力的な固有のいきものが多く暮らしています。
今回はその中でもトカラハブについて紹介します。

トカラハブ

鹿児島港より週に2度出発する長距離フェリーに乗り、13時間ほどの船旅をして見えてくるのが、17世紀のイギリスの海賊・キャプテンキッドが財宝を隠したという言い伝えが残る「宝島」です。トカラ列島の一つで、周囲13キロメートルほどの小さな島ですが、生物相は多様かつ凝縮されています。少し島を散歩するだけで、他の地域では出会うことが難しいトカゲ類が路上でよく顔を見せてくれます。そのうえ、あまり人を怖がらないのか撮影しやすいため、様々なシーンを撮ることができます!

偶然の連続! 多様な体色と孵化

トカラハブは宝島の北に位置する小宝島にも生息しており、この地が日本のハブ類が生息する最北端となります。夜行性のため、日中に出会うことはほとんどありません。
また、トカラハブは毒蛇です。毒は弱いそうですが注意が必要です。私も、接近して撮影する際には十分注意をしました。

以前、島のハブ取り名人に案内してもらえる機会を得ました。名人の軽トラに乗っていざ出発。すると、10分もしないうちにトカラハブは目の前に現れました。

筆者が出会ったトカラハブ

クリーム色の体表に斑紋が目立つ個体でした。撮影を終えて出発すると、すぐにもう1個体発見しました。今度は暗褐色の体表に斑紋が並んでいました。姿形は同じなのでトカラハブですが、体色は大きく異なります。
そこから次々と姿を見せてくれて、満足いく写真が多く撮れました。そろそろ終わろうかと思い車に戻ろうとすると、真っ黒な体色の個体が最後の最後で姿を見せてくれました。一晩でこれほど多くの体色変異を見ることができるなんて、感動です。

真っ黒の個体。とぐろを巻いて威嚇している

これだけ出逢いに恵まれましたが、さらに良い機会に遭遇しました。それは、孵化の瞬間です。トカラハブは、7月下旬から8月上旬にかけて2~7個の卵を産卵します。その後、約50日で孵化するそうで、偶然物陰で見つけた卵から孵化する瞬間を目撃できました。

トカラハブの孵化の瞬間

パカッと顔を覗かせたまだあどけない姿。しっかりと生き続けて、この島で末永く自然を見守って欲しいです。またいつか会いに行きたいですね。

【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう) 1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(スッポン、田んぼのいきもの、カナヘビ、小型サンショウウオ、ニホンイシガメ、ニホンヤモリ、トカゲ、イモリ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、オオサンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。

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