猫好きさんにおすすめスポット【番外編】スコットランド:グレンタレット蒸留所 世界の猫の守るもの

ある日、ねずみさんとネコさんがお話ししていました。少し聞いてみましょう。

ねずみ:「ネコさんネコさん、あなたのお耳はどうしてそんなに大きいの?」
ネコ:「ねずみさん、それはね……、あなたのかわいい小声をよく聞くためだよ……。」
ねずみ:「ネコさんネコさん、あなたはどうして猫舌なの?」
ネコ:「ねずみさん、それはね……、あなたの肌が恋しくて、ずっと舐めていたいからだよ……。」
ねずみ:「ネコさんネコさん、あなたはどうして1日10回も食事をするの?」
ネコ:「ねずみさん、それはね……、おまえでおなか一杯になるためだよぉぉぉっ!」

ねずみは無事逃げられたでしょうか?

猫は鼠を食べるため、体のいたるところを進化させてきたといっても過言ではないでしょう。鼠の会話は約20,000~90,000ヘルツにもなる超音波です。これを聞き分けるため、猫の耳はおよそ100,000~250,000ヘルツの超音波まで聞こえるように進化しました。
また、猫は38.5℃くらいの温度の食事が一番おいしく感じるといわれています。これは鼠などの捕食していた動物の体温がちょうどそのくらいの温度だからと考えられます。

そして、猫は頻回小食です。いつでもご飯が食べられる環境にしてあげると、少し食べてはどこかへ行き、また少し食べてはどっか行く、という行動を10回以上繰り返します。これは、鼠を食べていたころの名残と考えられています。実は、猫の1日に必要なカロリーを鼠で換算すると、ちょうど10匹! 野生の猫は1日10匹も鼠をとらえて暮らしていたのかもしれません。

日本の猫が鼠から養蚕業を守ってきたことは2025年2月22日「猫の日宝探し」でお伝えしました。

新田猫絵 新田俊純 筆者所蔵

同じ猫、同じお仕事、同じねずみ捕り。しかし、国が変われば猫が鼠から守っていたものも変わります。
今回は世界に目を向けて、歴史の中で猫が守ってきたものをご紹介いたしましょう。

伝説のウイスキーキャット「タウザー」

現存するスコットランドの最古の蒸留所、「グレンタレット蒸留所」には、「タウザー」というウイスキーキャットがいました。ウイスキーキャットとは、多くのウイスキー蒸留所で、ウイスキーの原料の一つである大麦を鼠から守るために飼われていた猫のことです。

タウザーは、24歳(1963~1987年)で虹の橋を渡るまでに28,899頭もの鼠をとらえた記録を持ちます。

タウザーの銅像

私も猫の栄養研究者ながら、鼠28,899匹のカロリーを計算してみました。鼠1頭当たり約30キロカロリーとして1日10匹食べるとすると……、なんと猫が摂取すべきカロリーの約約8.5年分! 彼の24年の生涯のうち、少なくとも3分の1は鼠を食べて生活していたことが分かりました。

その功績はギネス記録となり、その名が知られるようになったのです。でも、なぜ鼠の数をカウントできたのでしょうか。
実は、タウザーは鼠のしっぽは食べなかったようで、残された尻尾を保存していたそうです。その数を数えるのに、1カ月もかかったとか。よく保存してありましたね。
このように、スコットランド最古のグレンタレットはウイスキーと猫で「最高」なのです。

現在、グレンタレットには2匹の雄猫「グレン」と「タレット」がいます。巨大な蒸留室に寝床がありますが、引火を防ぐために電子機器での撮影はできません。しかし、蒸留所の敷地内を自由に散策しているので、運が良ければ彼らに会うことができるでしょう。残念ながら、彼らは鼠を捕らないそうですが、鼠に脅威を与えていることでしょう。

グレン
タレット
グレンとタレットのハウス

猫は時代や国ごとに関係性を変えながら、私たちの暮らしを助けてくれています。この蒸留所には二つ星のレストランもあり、ツアーを予約すれば蒸留所内も見学することができます。とくにピーテッドの燻製されたグレンタレットウイスキーはここでしか入手できません。あなたも世界の猫と人の関係を体験しに行ってみませんか?

グレンタレット蒸留所

グレンタレット蒸留所のポットスチル(蒸留器)

スコットランドの首都エディンバラより北に約1時間、のどかな牧場風景を抜けた渓谷にまたがるウイスキー蒸留所。創業は1763年とアメリカ合衆国よりも歴史が古く、現存するスコットランド最古のウイスキー蒸留所です。1923年のアメリカの禁酒法時代に閉鎖されましたが、1957年にジェームズ・フェアリー氏により再び日の目を見ることができました。2019年にはラリック社に買収され、ラグジュアリーな高級路線を進むことになりました。

このような長い歴史から、グレンタレットは何よりも伝統を重んじています。

グレンタレット蒸留所で作られるウイスキー

水源は名前の語源にもなったタレット川の貯水池だそうです。その水は、クリアな硬水で、コロコロと口の中で転がるのに雑味や舌触りを感じない、何も知らない人でも一口で上質な水であることが分かるような、そんな印象を受けました。

大麦は、50マイル圏内の借用地で育成しているそうです。大麦の粉砕する機械は、100年以上前に製造されたミルを使い続けているそうです。この機械を修理できるのは、なんと世界にたった一人。その人の連絡先を世に伝えないため、麦芽製造室は写真撮影禁止となるほどです。

グレンタレット蒸留所のウォッシュバック(発酵槽)

こちらは私の宝物「タウザーラベルのグレンタレット 20年物」。タウザーの記念ラベルを偶然入手することができました。このウイスキーのおかげで、グレンタレットを知りました。貴重過ぎて開けることができません!

猫ラベルのグレンタレットウイスキー

住所: The Glenturret Distillery, The Hosh, Crieff PH7 4HA イギリス

【執筆】
岩崎永治(いわざき・えいじ)
1983年群馬県生まれ。博士(獣医学)、一般社団法人日本ペット栄養学会代議員。日本ペットフード株式会社研究開発第2部研究学術課所属。同社に就職後、イリノイ大学アニマルサイエンス学科へ2度にわたって留学、日本獣医生命科学大学大学院研究生を経て博士号を取得。専門は猫の栄養学。「かわいいだけじゃない猫」を伝えることを信条に掲げ、日本猫のルーツを探求している。〈和猫研究所〉を立ち上げ、SNSなどで各地の猫にまつわる情報を発信している。著書に『和猫のあしあと 東京の猫伝説をたどる』(緑書房)、『猫はなぜごはんに飽きるのか? 猫ごはん博士が教える「おいしさ」の秘密』(集英社)。
2023年7月に「和猫研究所~獣医学博士による和猫の食・住・歴史の情報サイト~」を開設。
X:@Jpn_Cat_Lab

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