ウもタカも視力が良い?
血眼になって物を探している目つきを表す、「鵜の目鷹の目」という慣用句があります。
目つきや様子を表現する言葉であり、視覚器の性能のよさを表現する言葉ではありません。ひねくれて考えれば「そんな必死に探さなくてはいけないくらい目が悪いのでは?」と捉えることもできます。「目が良いことを表しているのだろう」と単純に解釈をして「鵜の目鷹の目をもっていれば見つかります」のような誤用をしないよう、気をつけなければなりません。
しかしこの慣用句は、ウやタカの視覚器の発達とまったく無縁とも言えません。鵜飼いによるアユ漁は平安時代以前から行われていましたし、鷹狩は紀元前からアジアの遊牧民族が行っていたと言われています。科学的解明以前の人も、生活の中で「鵜も鷹も目ざとく獲物を発見する優れた視覚を持っている」と見抜いていたのでしょう。
鵜や鷹に限らず、鳥類は哺乳類と比べて視覚器がとても発達しており、視力も色覚も優れています。
鳥の視力のヒミツは眼の中の骨にあり
鳥の眼を良くしている仕組みの1つに、眼の中の骨があります。
眼の中に骨? と不思議に思う人もいるかもしれません。いきなり骨の話をしても戸惑われるかと思いますので、まずは眼に光が入る様子からご紹介します。
動物の眼は、視界を屈折させて網膜に結像するレンズを、ヒトではわずか約24ミリメートル(長軸)、トリでは8~28ミリメートル(長軸)の球体におさめたものです。この屈折により、大きな外界を小さな眼球に取り入れてしまうのですから不思議です。まさに魔法のプリズムですね。そして、鳥によって差はあるものの、このプリズムはかなり自由に調整できるようになっています。
人をはじめとした哺乳類では、レンズ機能を持つのは水晶体のみです。しかし鳥類は、角膜の湾曲の度合いを変えられるため、水晶体と角膜の両方がレンズ機能を有します。その性能は鳥の種類で差があり、たとえば猛禽類では湾曲できる度合いが強くなります。
「角膜の湾曲の度合いが変えられる」ということは「角膜を変形できる」ということです。どのように変形しているのでしょうか。
鳥の角膜の縁には毛様体筋が付いており、その収縮により角膜の湾曲を凸にしたり平面にしたりして調整する仕組みになっています。さらに鳥は、毛様体筋の調節を意図的に行えます。哺乳類の毛様体筋は自由に動かせない平滑筋ですが、鳥の毛様体筋は自由に動かせる横紋筋なのです。カメラで例えると、少し時間をかけて自動ズームでピントを合わせるか、マニュアルで瞬時にピントを合わせるかの違いに似ているかもしれません。
一般的な鳥の眼は、視野が広くなる平型のつくりです。眼が平たいと、光軸は短く、解像力は低くなってしまいます。そのため鳥は、レンズの厚みや硝子体の形を変えて少しでも光軸を長くする仕組みに長けているのです。
その極みが猛禽類かもしれません。猛禽類は、レンズの丸みを強くし、硝子体も球体にしています。この結果として、光軸が長くなり、網膜の結像の感度を上げて視力が鋭くなっています。これは、側レンズ(水晶体輪枕)に頼るところが大きい仕組みです。
側レンズは、毛様体筋に接しており、水晶体をリング状に囲んでいます(写真1)。毛様体筋の力によって、絞るように水晶体に圧をかけると、水晶体の厚さが素早く増します。
反対に遠くを見るときは、これらの筋を弛緩させることで、水晶体・角膜の湾曲を元に戻します。さらには、眼球の主たる部分の硝子体の形状も変え、光の屈折を調整します。
このように、鳥類の眼球の光学部分には絶えず変形させる力がかかります。しかし、その力によって眼球内の圧力が崩れては大変です(写真2)。
なので、眼球を安定させ、角膜・水晶体・硝子体の相互の位置関係や、屈折を作るふくらみを保つために、強膜輪(写真3、4)という、人などの哺乳類には見られない眼球の骨組みがあるのです。
【執筆】
杉田昭栄(すぎた・しょうえい)
1952年岩手県生まれ。宇都宮大学名誉教授、一般社団法人鳥獣管理技術協会理事。医学博士、農学博士、専門は動物形態学、神経解剖学。実験用に飼育していたニワトリがハシブトガラスに襲われたことなどをきっかけにカラスの脳研究を始める。解剖学にとどまらず、動物行動学にもまたがる研究を行い、「カラス博士」と呼ばれている。著書に『カラス学のすすめ』『カラス博士と学生たちのどうぶつ研究奮闘記』『もっとディープに! カラス学 体と心の不思議にせまる』『道具を使うカラスの物語 生物界随一の頭脳をもつ鳥 カレドニアガラス(監訳)』(いずれも緑書房)など。
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