釈迦涅槃図に描かれない動物とは?
皆さんは、「釈迦涅槃図(しゃかねはんず)」をご存知でしょうか? お釈迦様の入滅(亡くなるとき)の様子を描いた壮大な絵図で、いくつもの涅槃図が描かれています。涅槃図には動物が描かれることはなかったそうですが、次第に多くの動物が描かれるようになっていきます。


しかし、なぜか猫は描かれないのが定石のようになっていました。それでも、いくつかの涅槃図には猫が描かれています。石川県金沢市の称名寺、大阪府枚方市の浄土院、三重県鈴鹿市の龍光寺、東京都世田谷区の浄真寺、京都府東山市の東福寺の大涅槃図などには猫が登場します。
猫が描かれた涅槃図が少ない理由
奈良国立博物館で開催された企画展「いのりの世界のどうぶつえん」で展示された、鎌倉時代(14世紀)の「仏涅槃図(個人蔵)」には非常に多くの動物が描かれており、レッサーパンダやセンザンコウ、水牛、ラクダ、バッタまで入滅に際し悲しんでいる様子が描かれています。その中には猫の姿がありますが、多くの動物達とは反対方向を見て、悲しんでいないように描かれていました。
この表現にはいくつかの理由があるといわれています。
お釈迦様の生母と伝わる摩耶夫人(まやぶにん)が、具合の悪いお釈迦様を案じて不老長寿の薬袋を天上界から投げてよこしたところ、沙羅双樹(さらそうじゅ)の木にひっかかってしまいました。その薬袋をねずみが取りに走ったところ、猫に追いかけられて薬はお釈迦様に届かず、入滅されてしまったそうです。他にも、「死体を踊らせる」「死体を食べる」などの猫の悪性によるところもありますが、それらはむしろ近世に入ってからの見方であり、涅槃図には天魔(仏道修行を妨げる魔)や速疾鬼(悪鬼)も描かれているので、本当の理由ははっきりとわかっていません。

おわりに
猫は、現代の私たちの生活の中でも様々な表情を見せてくれます。それがたまらなく魅力的ではありますが、日本の長い歴史の中でも謎めいた存在です。
甘えてきたり離れたり、お釈迦様でさえ猫に翻弄されていたのかもしれませんね。
【執筆者】
柴内晶子(しばない・あきこ)
獣医師、⽇本動物病院協会(JAHA)内科認定医、⾚坂動物病院(東京都港区)院⻑。1986年より⽇本動物病院協会CAPP活動(動物介在活動ほか)に参加。⽇本⼤学農獣医学部(現:⽣物資源科学部)獣医学科卒業。日本獣医畜産大学臨床病理学教室研修生を経て、93年より赤坂動物病院勤務。人と動物の絆を礎にした伴侶動物医療をモットーにしながら、社会貢献活動としてCAPP活動を推進するとともに、保護猫・保護犬の譲渡活動も継続している。また、農林⽔産省獣医事審議会委員、農林⽔産省薬事・⾷品衛⽣審議会薬事分科会動物⽤医薬品等部会動物⽤再⽣医療等製品・バイオテクノロジー応⽤医薬品調査会委員、⽇本獣医史学会評議委員、⽇本臨床獣医学フォーラム幹事、⽇本動物愛護協会評議委員、⽇本⼤学⽣物資源科学部⾮常勤講師、ねこ医学会CATvocate認定講座講師などを務める。
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