カラス博士の研究余話【第34回】黒いカラスは暑さにどう向き合っている? カラスの四季~猛暑~

一般的に、黒色のものは光を浴びると温度が上がります。これは、黒いものが光を吸収して熱エネルギーに変えるからです。
そんな話を聞くと思わず、真っ黒なカラスたちは、猛暑で熱中症にならないのかと気になります。

予報では、今年の夏は例年に比べて猛暑が続くようです。7月には、1日に全国で約1,950人が熱中症で緊急搬送されたというニュースもありました。
ところが、熱中症で瀕死の状態のカラスは見かけません。ジリジリと照りつける日差しを全身で浴び、熱をため込みそうな黒一色のカラスは、いったいどうやって猛暑を克服しているのでしょうか?

熱を吸収する仕組み

カラスの体温は約41度です。
人間の場合、このくらい体温が上がったらたちまち命の危険が迫ります。しかし、カラスにとっては平熱なので平気です。体温が高い分、高温には耐性があるのかもしれません。体質的にはそうでも、もう少し耐暑の仕組みを考えてみましょう。あの真っ黒な体がこの酷暑を克服するには、さまざまな仕組みがありそうです。

暑い日に電線に止まったカラスを何気なく見ていると、飛び立つわけでもなさそうなのに羽を少し持ち上げ、背を丸くするような姿を見ます(図1)。これは、羽を体から離し、風の通りを良くして涼んでいると考えられます。

図1.羽を持ち上げ、風通しを良くしている様子

また、カラスの羽は黒くて熱を集めますが、実は皮膚に接していません。羽の下には無数の綿毛があり、太陽の光が表面の羽で遮断され、綿毛の層は安定した温度を保ちます。それでも暑くなれば、羽を持ち上げて風通しを良くします。

熱を逃がす仕組み

他にも、カラスが熱に耐える仕組みや生態があります。

カラスには汗腺がないので、汗で熱を逃がして体温を調整することはできません。暑い日のカラスをよく観察すると、口を半開きにしてボンヤリしています(図2)。こうすることで、肺の中で温まった空気を出し、口腔と気管粘膜から熱を逃がしています。この点は、犬と似ていますね。

図2.口を開き、熱を逃がしているカラス

また、水遊び(図3)をして河原や木立の枝で羽を広げて乾かし、その際に生じる気化熱を体温調整に使っています(図4)。

図3.水遊びをして体温調節をする様子(寄生虫対策も兼ねています)
図4.水遊び後に日光浴をして、気化熱を利用した暑さ対策をする様子

足の裏や嘴(くちばし)も体温調節に使っています。カラスの体で皮膚がむき出しの場所は、足の裏と嘴だけです。そのような皮膚が露出している場所には、無数の毛細血管が集まっています。特に、足の裏にはホイヤーグロッサー器官という、毛細血管の複雑な塊があります。暑ければ熱を逃がし、寒ければ血流を減らして体温調節をしています。木立の涼しい木々に止まり、足の裏を冷やして体温を調整することもできます。

一方で、ヒナには暑さを凌ぐ耐性も知恵もありません。夏の日差しを浴び続けることは、ヒナにとって命の危険につながるでしょう。そんな心配をしながら巣の観察をしていると、なんと親ガラスが羽をやさしく広げ、ヒナに日陰を作っていました(図5)。なんとも言えない親の慈しみを感じました。

図5.翼を広げてヒナへの日差しを防ぐ親ガラス

おわりに

真っ黒なカラスは、酷暑から逃げようがないと心配する方もいるかもしれません。しかし、ここまで繁栄したカラスは、知能ばかりではなく、環境対応にも優れた構造や生態を持っています。ここではカラスを中心に紹介しましたが、他の鳥類にも多様な暑さ対策があると考えます。熱中症に気を付けながら、カラスをはじめとする身近な鳥の夏の過ごし方を観察してみてください。

【執筆者】
杉田昭栄(すぎた・しょうえい)
1952年岩手県生まれ。宇都宮大学名誉教授、一般社団法人鳥獣管理技術協会理事。医学博士、農学博士、専門は動物形態学、神経解剖学。実験用に飼育していたニワトリがハシブトガラスに襲われたことなどをきっかけにカラスの脳研究を始める。解剖学にとどまらず、動物行動学にもまたがる研究を行い、「カラス博士」と呼ばれている。著書に『カラス学のすすめ』『カラス博士と学生たちのどうぶつ研究奮闘記』『もっとディープに! カラス学 体と心の不思議にせまる』『道具を使うカラスの物語 生物界随一の頭脳をもつ鳥 カレドニアガラス(監訳)』(いずれも緑書房)など。

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