ポルトガル北部に位置する港町、ポルト。午後3時を少し回ったころ、サン・ベント駅を後にし、街のシンボルであるドン・ルイス1世橋へ向かいました。橋から見下ろした先には、悠々と流れるドウロ川が広がり、大小さまざまな船が行き交っていました。船は川を渡る人々や観光客を乗せて、静かに進んでいました。赤茶色の屋根が幾重にも連なる世界遺産の街並みとその穏やかな川の風景は、まるで1枚の絵画のような美しさでした。

世界遺産にもなっている歴史ある街並みや、名産のポートワインがよく知られているポルト。しかし、この街を歩いていて最も心に残ったものは、人と犬がごく自然に寄り添い、穏やかな時間を分かち合いながら暮らしている、そんな何気ない日常の風景でした。
夕暮れのドウロ川沿いには、愛犬とゆっくり散歩を楽しむ人、夫婦や恋人、友人とワインを片手に語り合う人たちの姿がありました。その足元にいるのは、落ち着いた様子で穏やかな表情の犬たち。「連れられて歩く存在」ではなく、「家族の一員」として、犬も人と同じ時間を楽しんでいるように見えました。


川辺で出会った二人の男性にこの街らしい暮らしを教えてもらいました。
「仕事をリタイアしてから、この子を迎えたんだ」
そう話しながら愛犬をやさしくなでる男性の表情がとても印象的でした。この男性はほぼ毎日ドウロ川沿いを散歩し、隣にいる親友と週に5日はここで会って昔話やサッカーの話で盛り上がるそうです。
犬がいるから外へ行く。散歩をする。友人と会い、語り合う。犬が人と人をつなぎ、豊かな時間をもたらしていることが、その何気ない会話から伝わってきました。


男性たちに別れを告げ、その後も散策を続けていると、思わず笑顔になる光景に出会いました。ワイナリーが点在し、にぎわう道を歩いていると、ワインボックスを前側に取り付けた自転車が風を切って軽やかに走ってきました。そのボックスの中には、小さなボーダー・コリーの子犬がちょこんとお座りしています。ときおり飼い主さんを見上げて目を合わせる姿は、飼い主さんからの「大丈夫?」という声に応えているようです。安心した表情を浮かべた子犬は前を向き、その後はゆらゆらと流れていく景色を静かに眺めていました。

旅を終えた今でも思い出すのは、犬とともに穏やかな時間を楽しむ人々の笑顔です。
ポルトは、犬と暮らす幸せが街の風景そのものになっている、そんな場所でした。
【写真・文】
蜂巣文香(はちす・あやこ)
写真家。犬、猫、コンパニオンバードなどのペット写真をはじめ、手仕事やライフスタイルなどさまざまな分野で“伝わる”写真を日々撮影している。広告や雑誌、書籍、WEBなど幅広く活躍中。欧米を中心とした海外での撮影経験も豊富。愛犬雑誌「Wan」(緑書房)でもおなじみのカメラマンで、柴犬をモチーフにしたカレンダーシリーズ「しばいぬ(卓上)」「日本の柴犬(壁掛け)」「黒柴(壁掛け)」(緑書房)も毎年好評を博している。
Instagram:dogtionary_hachi

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