「糞」は、多くの人が汚いというイメージを持っていると思います。糞に興味を持つ人や、美しいと思う人は、糞の研究者ぐらいでしょう。私は糞の研究者ではないので、できれば避けて通りたい側の立場です。ところが、出会いは思わぬ形でやってきます。
今回は、そんなカラスの糞について紹介します。
カラスの糞は何が問題?
カラスに関する問題は、生活生ごみの食べ荒らしや、繁殖期の親ガラスによる人への攻撃、農作物への食害ばかりではなく、糞も大きな問題です。「出物腫物(でものはれもの)所嫌わず」という言葉がありますが、カラスの脱糞は所かまわずで、都市部の通路(図1)、ベンチ(図2)、車(図3)など、多岐にわたります。これが、洗ってもなかなか落ちない曲者です。乾くと白い部分の結晶化が進み、無理にこすると車の塗装に傷がつきます。このように、色々なところで糞問題が生じているので、「先生、カラスの糞はどうにかなりませんか?」という依頼が入ってくるようになりました。
糞害はカラスが集まった結果なので、彼らの行動にも関係します。私はカラスの行動学も研究しているので、無関係とは言えず、カラスの「糞」に関わらざるを得ない状況になりました。



カラスの糞が茶色と白色なのはなぜ?
カラスに限りませんが、鳥の糞は中心の茶色の部分と周囲の白い部分に分かれます(図4)。白い部分が私たちのオシッコ(尿)に相当します。茶色の部分がうんち(便)です。

タンパク質を分解する過程で窒素が生じるのですが、窒素そのものはいきものの体には有害です。なので、無毒で安定した窒素化合物である尿酸や尿素として肝臓で作り変えられます。鳥は尿酸を、哺乳類は尿素を作ります。鳥には尿を溜めておく袋である膀胱(ぼうこう)がないので、水分をあまり使わずに排出できる尿酸を作ると考えられています。
尿酸は、腎臓で濃縮されて粘性の高い液体として尿管に押し出され、糞と同じ出口まで行きます。
なぜ鳥の糞は、大腸から出た便が中心にあり、尿に相当するものがその周囲に分かれているのだと思いますか? これには、排せつ物が出る出口の構造が関係しています。直腸便と尿は、同じ出口である「総排せつ腔(そうはいせつこう)」から体外に出されます。この総排せつ腔の手前には直腸便が通る直腸開口部があり、その左右に尿管の出口が1つずつあります。このような構造のため、尿である白い部分が大腸便を囲むように出てくることが多いのです。

糞といえば、病原体の有無も気になります。研究によると、廃棄食材についている菌と同型の遺伝子の菌が糞から検出された例もあります。ただし、カラスから人への感染の因果関係は、はっきりとわかっていません。なので、むやみに恐れる必要はないと思います。しかし、尿酸などは乾燥すると飛沫化します。糞を掃除するときは、手袋やマスクの着用、流水で溶かすなど、飛沫を吸わないように注意が必要です。
おわりに
生ごみを食べる姿からは想像できないかもしれませんが、カラスはきれい好きで、糞で巣を汚すことはありません。ヒナガラスが糞を出そうとお尻を持ち上げると、親ガラスはすかさずヒナの総排せつ腔から糞を器用にくわえ、どこかに捨てにいきます(図5)。また、ヒナたちも成長するにしたがって、親がいなくても、排便の際に巣の淵にお尻を運び、勢いよく外へ飛ばして巣の中に糞が落ちないようにします。
以前、研究室でカラスがどのくらい糞を飛ばすのか計測したことがあります(図6)。記録は、5~10センチメートルでした。


いたる所で生じるカラスの糞問題は、カラスが身近ないきものであることの証です。
だからこそ、衛生面に気を付けながら、共存の道を考える必要があるのだと思います。
【執筆者】
杉田昭栄(すぎた・しょうえい)
1952年岩手県生まれ。宇都宮大学名誉教授、一般社団法人鳥獣管理技術協会理事。医学博士、農学博士、専門は動物形態学、神経解剖学。実験用に飼育していたニワトリがハシブトガラスに襲われたことなどをきっかけにカラスの脳研究を始める。解剖学にとどまらず、動物行動学にもまたがる研究を行い、「カラス博士」と呼ばれている。著書に『カラス学のすすめ』『カラス博士と学生たちのどうぶつ研究奮闘記』『もっとディープに! カラス学 体と心の不思議にせまる』『道具を使うカラスの物語 生物界随一の頭脳をもつ鳥 カレドニアガラス(監訳)』(いずれも緑書房)など。

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