カラス博士の研究余話【第33回】カラスは何年生きるの?

「カラスは何歳まで生きるのですか?」と、よく質問されます。いろいろな文献を調べてみるのですが、ある本では5~6歳、ある本では20歳などと、およそどれを信じていいのか分からなくなります。また、どの記載にもこれといった科学的根拠は記述されていません。

それでも、私のところには同様の質問がやって来るので、カラスがどのくらい生きるのか考えてみました。今回は、そんなカラスの寿命に関するお話です。なお、ここで述べるカラスはハシブトガラスとハシボソガラスのことを指します。

他の鳥類とは違うカラスの死

良い意味でも悪い意味でもカラスの寿命が気になるのは、カラスの死骸を目撃することが少ないからではないでしょうか。私は宇都宮の郊外に住んでいるので、カラスは毎日目にしますし、近くの工業団地にある送電線の鉄塔には、数百羽の群れが留まっています。かつて愛犬を連れて毎朝40分ほど散歩をしていたときも、カラスはほぼ毎日見かけましたが、カラスの死骸は田んぼのあぜ道で数度目撃したのみです(図1)。

図1.あぜ道で目撃したカラスの屍骸

では、カラスは死なないのでしょうか?
そんなことはありません。おそらく、塒(ねぐら)がある大きな林の中には死骸があり、人間が普段は足を踏み入れない場所なので、人目につかないのだと思います。また、死期が近づいた多くの野生動物は、ひっそりと静かな最後の場を求めるとも聞きます。

他にも考えられることがあります。死んだカラスの死骸を仲間が食べてしまうということです。一般的に、鳥類は死んだ仲間を食べる、あるいは共食いをすることはほとんどありません。しかし、カラスは共食いをします。数羽のカラスを同じ檻に入れたとき、ある1羽が他のカラスとケンカをして負けたことがありました。その後、負けて死んだカラスを、勝ち残ったカラスと周りにいたカラスが残酷にも残さず食べてしまったのです。これは、死肉に群がる哺乳類の天敵を寄せ付けないためなのかもしれません。カラスの死の実態はわかりませんが、肝心の寿命はどれほどのものなのでしょうか。

カラスの寿命の概算

カラスの寿命を証明する科学的なアプローチには、2通りあります。1つは、いきものの最長寿命は、性成熟に達する年限の5~6倍という考え方です。これは、哺乳類において、飼育経験などから一般的に受け入れられているものです。
たとえば人間の女性の場合、生理が安定してくるのが14~15歳だとすると寿命は大きく見積もって、おおよそ90歳です。このように、性成熟から考えると、まずカラスは1年目の繁殖期では成鳥になっておらず、2年目の繁殖期で性成熟を迎えます。その時の年齢はおよそ2歳ですから、哺乳類の考え方ですが、カラスの寿命は10~12歳ということになります。

実は、私は12歳のカラスを飼育していたことがあります。年齢調査済みの8歳カラスを4年預かりました。名前はナッチャンです(図2)。

図2.12歳まで生きたナッチャン

もう1つは、心拍数から算出する方法です。動物の一生の心拍数は、およそ15億回と考えられているので、寿命÷心周期=15億という計算式で求められます。カラスの心拍数ははっきりと分かっていませんが、カモやハトなどの一般的な鳥類の心拍数は150~250拍/分です。仮にカラスの心拍を200拍/分とすると、15億/(200拍×60分×24時間×360)=約14年となり、カラスの寿命は14年ということになります。この結果は概数ではありますが、性成熟から求めたものと比較的近似した値です。

おわりに

実際には、どちらの方法を用いるにしても計算通りにはいきません。現在の日本人の平均健康寿命は男性が72.5歳、女性は75.5歳ですが、100歳以上生きることもあれば、不慮の事故や病気で短命な人もいます。今から80年前、地域によっては乳児死亡率ゼロを目標にしていた自治体もあったくらいです。ましてや、野性のカラスの寿命など、カラスには戸籍謄本もないので正確に把握するすべもありません。しかし、孵化して無事に巣立ちできるカラスは、全体の半数ほどと考えられています。なので、平均寿命は計算上の寿命より短いと考えられます。現に、連載第3話で、4羽のヒナ(図3)がすべて巣立ちできなかったことを紹介しました。クマを含め、野生動物が自然の中で命をつなげていくことの厳しさや、人間社会が与えている影響を、絶えず私たちの眼から見て考え続けることが大切のように思います。

図3.巣立ちできなかったヒナたち

【執筆者】
杉田昭栄(すぎた・しょうえい)
1952年岩手県生まれ。宇都宮大学名誉教授、一般社団法人鳥獣管理技術協会理事。医学博士、農学博士、専門は動物形態学、神経解剖学。実験用に飼育していたニワトリがハシブトガラスに襲われたことなどをきっかけにカラスの脳研究を始める。解剖学にとどまらず、動物行動学にもまたがる研究を行い、「カラス博士」と呼ばれている。著書に『カラス学のすすめ』『カラス博士と学生たちのどうぶつ研究奮闘記』『もっとディープに! カラス学 体と心の不思議にせまる』『道具を使うカラスの物語 生物界随一の頭脳をもつ鳥 カレドニアガラス(監訳)』(いずれも緑書房)など。

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