日本の猫の歴史【第5回】おとぎ話の猫

室町時代から江戸時代に成立した短編物語「御伽草子」。昔話でなじみ深い「一寸法師」や「浦島太郎」などがその一部であることはご存知でしょうか?
この「御伽草子」は、江戸時代に渋川清右衛門が木版刷りで出版した「渋川版」が有名で、挿絵と文章で描かれ、楽しく読み進められる物語として世の中に出ていました。
今回は、その渋川版に収録された、猫が登場する「猫の草紙」というお話を紹介します。

猫が家の外を歩くようになる話

このお話では、慶長7年(1602年)の江戸幕府誕生前年に、徳川家康より「ねこの放し飼い令」が発布されたくだりが書かれています。

平安時代から、猫は高貴で裕福な家で暮らし、首に綱がつけられていました。しかし、江戸時代には、鼠害対策のためにも町中に放つように、また猫の売買をしてはいけないというお布令が出ました。これにより、各家は、屋内で大切にしていた猫に名札を付けて、家の外で放し飼いをしたと言われています。

猫の放し飼い令のお布令札の絵。『御伽草子』第16冊(ねこのさうし)、刊、国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2537584より改変

しばらくして、京都の高僧の夢にネズミが相談にやって来ました。かれらは、猫が放たれたことでいかに自分達の肩身が狭く、命の危険にさらされているという困りごとを延々と伝えました。しかし、高僧は、そもそもネズミが穀物や書物をかじることが良くないと諭します。

一方、虎柄の猫も夢にやってきて、自由に外に放たれてとても助かっているという話をしました。結局、ネズミは諦めて、近江国(滋賀県)に引っ越すことになりました。

これが、「猫の草紙」の大まかな内容です。

鼠が高僧の夢に出てくる絵。『御伽草子』第16冊(ねこのさうし)、刊、国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2537584より改変
虎柄の猫が高僧の夢に出てくる絵。『御伽草子』第16冊(ねこのさうし)、刊、国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2537584より改変

擬人化した猫が駆け落ち?

猫が登場する物語は他にもあり、「朧月猫の草紙」という長編巻物がその一つです。これは、江戸末期に山東京山と歌川国芳により作成・刊行された、今でいう小説のようなものです。

鰹節屋の「こま」というメス猫の駆け落ちから始まる読み物で、着物を着た猫や歌舞伎役者のような表情を見せる猫など、個性豊かな猫が登場して物語が展開されていきます。

当時から、猫はその魅力で人を惹きつけるだけではなく、作品の題材になるほど人気だったようです。

山東京山 作 ほか『朧月猫草紙』初編、弐編,山本平吉,天保13-弘化3 [1842-1846]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/10303446(参照 2026-09-04)より改変

おわりに

江戸時代から現代に至るまでに、犬は家につながれ、その後洋犬の輸入なども経て、徐々に屋内で共に暮らす存在になり、猫は自由に屋外を闊歩するようになりました。そして、今では様々な理由から、特に都市部では犬も猫も屋内で暮らし、人との暮らしの中で社会化をしながら伴侶動物として共に生きて行く存在になってきています。
共に長く暮らしていれば、いつかあなたの愛猫が、夢の中で語りかけてくる日が来るかもしれません。

【執筆者】
柴内晶子(しばない・あきこ)
獣医師、⽇本動物病院協会(JAHA)内科認定医、⾚坂動物病院(東京都港区)院⻑。1986年より⽇本動物病院協会CAPP活動(動物介在活動ほか)に参加。⽇本⼤学農獣医学部(現:⽣物資源科学部)獣医学科卒業。日本獣医畜産大学臨床病理学教室研修生を経て、93年より赤坂動物病院勤務。人と動物の絆を礎にした伴侶動物医療をモットーにしながら、社会貢献活動としてCAPP活動を推進するとともに、保護猫・保護犬の譲渡活動も継続している。また、農林⽔産省獣医事審議会委員、農林⽔産省薬事・⾷品衛⽣審議会薬事分科会動物⽤医薬品等部会動物⽤再⽣医療等製品・バイオテクノロジー応⽤医薬品調査会委員、⽇本獣医史学会評議委員、⽇本臨床獣医学フォーラム幹事、⽇本動物愛護協会評議委員、⽇本⼤学⽣物資源科学部⾮常勤講師、ねこ医学会CATvocate認定講座講師などを務める。

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