フォトエッセイ犬と人が織りなす文化の香り【第27回】スイス・グリンデルワルトとユングフラウヨッホ

スイスで自然が美しい場所といえば、やはりグリンデルワルトとユングフラウヨッホです。太陽が昇る前、チューリッヒから電車に乗り、グリンデルワルトへ向かいました。街を離れていく車窓の外には、岩の合間に残る雪と広がる鮮やかな緑、風に揺れる黄色やピンクなどの花々が続き、まるで絵画のような景色に見入ってしまいました。

最初に到着した村、グリンデルワルトは驚くほど静かで、ひんやりとした空気が心地よく感じられました。朝日に照らされた名峰アイガーの岩肌は圧倒的な存在感を放ち、カウベルの音が遠くからやさしく響いてきました。そんななか、駅に滑り込んできた電車とともに、ガイドの女性とセント・バーナードが現れました。首に小さな樽を下げたその姿にたちまち観光客が集まり、笑顔と歓声が自然に広がっていきました。駅のすぐ先のカフェには、人と一緒に朝食をとるボルゾイや、朝のウォーキングを楽しむジャーマン・シェパード・ドッグがいて、その姿からは優美さを感じました。

そんな光景を胸に、再び電車に乗ってユングフラウヨッホへ向かいました。標高が上がるにつれて景色は緑から一面の雪へと変わり、気温も一気に下がっていきました。トンネルが途切れるたびに見える雪景色に胸を弾ませているうちに、標高3,454メートルの終着駅へと到着しました。

厚手のアウターを羽織ってスフィンクス展望台をぐるっと見て回り、そこから外に出ました。すると、犬ぞりの犬たちが整然と並び、真っ白な雪の上で静かに息を整えているのが目に入りました。吐く息は白く、凛とした空気の中でその存在がいっそう際立っていました。たくましい体つきでありながら、その表情は驚くほど穏やかで、どこか誇り高くも見えました。

熱心に見つめていると、休憩を終えたそり使いの男性が犬たちのところに戻ってきました。すかさず「この犬たちの犬種は何ですか?」と声をかけると、彼はサングラスの隙間からこちらをチラッと見て少し微笑みながら、「君はラッキーだね。この犬たちはグリンデルワルトドッグだよ」と教えてくれました。その言葉を聞いた瞬間、この土地に根ざした存在に出会えた気がして、胸の奥がじんわりと熱くなりました。

電車で出会ったセント・バーナードの穏やかさとはまた違い、彼らには雪の世界を生き抜く力強さと静かな気迫がありました。アルプスの厳しさと美しさ、その両方を体現しているかのような姿に、ただただ心を奪われました。

時間の感覚を忘れ、冷たい空気の中に立ち尽くしたまま、その光景をいつまでも目に焼き付けました。ここでしか出会えない特別な瞬間が、静かに心に刻まれていくのを感じ、忘れがたい旅となりました。

【写真・文】
蜂巣文香(はちす・あやこ)
写真家。犬、猫、コンパニオンバードなどのペット写真をはじめ、手仕事やライフスタイルなどさまざまな分野で“伝わる”写真を日々撮影している。広告や雑誌、書籍、WEBなど幅広く活躍中。欧米を中心とした海外での撮影経験も豊富。愛犬雑誌「Wan」(緑書房)でもおなじみのカメラマンで、柴犬をモチーフにしたカレンダーシリーズ「しばいぬ(卓上)」「日本の柴犬(壁掛け)」「黒柴(壁掛け)」(緑書房)も毎年好評を博している。
Instagram:dogtionary_hachi

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