動物たちにも社会がある? アリとシロアリの社会をのぞいてみよう!

現代の日本では、1億を超える人々が互いに仕事をこなし、生活が成り立っています。インフラ整備、生活必需品、娯楽、さらに言えば、それらを作るための材料や道具を作る人など、様々な人間が関わり合っています。この人々のつながりによって形成される巨視的な現象を社会と呼んでいます。

それでは、人間以外のいきものたちにも社会と呼べるような他個体とのつながりはあるのでしょうか? たとえば、哺乳類や鳥類だと、多くの種が子育てを行うため、親子を中心とした血縁者で構成される群れを作ることがあります。あるいは同じくらいのサイズの小魚や小鳥が集まって「スクール(School)」と呼ばれる群れを形成する場合もあります。種類が多い昆虫では、社会性昆虫と呼ばれる、集団で生活する種類もいます。

今回は、社会を形成するいきものの代表例として、アリとシロアリについて紹介します。

アリとシロアリの社会性

社会を持つ「社会性昆虫」の中でも、アリやシロアリなどは、産卵する個体(女王蜂や女王アリ)としない個体(働き蜂や働きアリ)に分かれています。彼らのような、繁殖分業をする昆虫は、「真社会性昆虫(Eusocial insects)」と呼ばれています。

アリとシロアリは、どちらも働きアリには翅が無く、土中や朽ち木の中に集団で暮らしていて、繁殖期になると巣から羽アリが一斉に飛び立つなど、一見よく似た暮らしをしているのですが、実は全く別のいきものです。アリは、翅のないハチの仲間(膜翅目)で花の蜜や樹液、他の昆虫などを食べていますが、シロアリはハチの仲間ではなく、ゴキブリの仲間(網翅目)で落ち葉や枯れ木、時に生きた木を食べています。

アリとシロアリの社会で大きく異なる点は、雌雄の役割です。アリの場合、社会の構成員は基本的に全てメスです。オスは繁殖期にめがけて育てられ、メス(将来の女王)と交尾した後すぐに死んでしまい、働くことはありません。

一方で、多くのシロアリではオスとメスは協力して巣を作り、子育てを行い、大きな巣であっても女王と王が同居しています。

スギオシロアリ女王(上)と働きアリ(下)。写真:小林和也

アリとシロアリの社会では、産卵する個体としない個体がいることが生物学的に最も重要な特徴ですが、それ以外にも様々な役割分担をして暮らしています。例外も多いですが、典型的なアリやシロアリの暮らしぶりを見ていきましょう。

アリとシロアリの分業

将来の繁殖を担うことになる子どもは、巣の中で幼いころから特別な扱いを受け、働きアリたちよりも大きな体で翅がついた姿に育っていきます。繁殖期になると、育った羽アリたちは一斉に巣から飛び出して婚姻飛行(Mating flight)と呼ばれるお見合いパーティーに参加します。そこでパートナーを見つけ、アリの場合は交尾を済ませてメス1匹で、シロアリの場合はパートナーと一緒に2匹で新たな巣を作り始めます。最初は働いてくれる働きアリがいないため、自分たちの体に蓄えた栄養だけで何とかやりくりしながら、なるべく早く労働力を確保するために、大きめの卵を産むことで子育て期間を短縮します。

アリは完全変態昆虫といって、卵から生まれてくる幼虫は芋虫状で脚も未熟で自分ではほとんど何もできません。何度か脱皮を繰り返して蛹になり、成虫になることでやっと働きアリとして仕事ができるようになります。

一方、シロアリは不完全変態昆虫で、卵から生まれたばかりの幼虫も自分の脚でよちよちと歩くことができ、アリと比べると比較的早い段階から幼虫のまま働きアリとして仕事ができるようになります。

スギオシロアリの兵隊アリ(中央の頭部がオレンジ色の個体)と幼虫(小さく白い個体)と卵(中央やや右上のつぶつぶ)。写真:小林和也

最初に生まれた働きアリたちの主な仕事は巣の防衛や餌探しなど、王や女王に任せられない危険な仕事です。シロアリでは、最初に生まれた子どもたちの中の1匹が兵隊アリとなって、巣の入り口をふさぐ仕事を担います。巣が大きくなり働きアリが増えると、働きアリたちの最初の仕事は概ね子育てとなり、卵や幼虫の表面を唾液に含まれる抗菌物質で綺麗にしたり、餌を与えたりする仕事を担います。

幼虫を運搬するアミメアリの働きアリ。写真:納富祐典

働きアリがさらに増えると、王や女王は繁殖に専念するようになり、巣の奥深くの安全な場所で働きアリから餌をもらって暮らすようになります。この時期には、次第に働きアリの間でも役割分担が進んでいきます。巣の奥深くで王や女王、卵や幼虫の世話をする個体、巣の拡張や清掃などの維持管理をする個体、巣の外に出て餌を探す個体などと労働分業が進んでいき、もっぱら若い個体が巣内で子育てに従事し、年老いた個体が巣外で餌を探す仕事に従事します。このように、働きアリの日齢によって従事する仕事が異なる現象は、「齢間分業」と呼ばれています。

アリの場合、働きアリは成虫でそれ以上成長しないのですが、同じ時期に同じ母親から生まれてきた働きアリたちの間でも体の大きさが異なり、別の種類に見えるくらい姿形が違う働きアリが巣内で暮らしている種類もいます。

身近な種類ではオオズアリの仲間が代表例で、その名の通り大きな頭の働きアリと普通サイズの働きアリがいます。大きな頭のアリは強そうな顎を持っていますが、これは喧嘩用ではなく、主に大きな餌の解体と巣の中で栄養の貯蔵を担っているようです。

シロアリの場合、働きアリが巣の中で一生働いて繁殖せずに終わる種類と、最終的に羽アリとなって飛んでいく種類がいます。どちらのシロアリでも、兵隊アリと呼ばれる個体がおり、頭が固い彼らは巣の防衛を担います。彼らは繫殖能力がないので、シロアリの社会でもやはり繫殖分業は存在することがわかります。そして、巣が大きくなり、構成員の数が増えれば労働分業が進んでいく傾向が知られています。

働かないアリもいる?

アリでは、ある程度分業が進んでいくと、巣の中で、時々自分の触覚や体を掃除するくらいで、他の個体の役に立ちそうなことを何一つしない働かない働きアリが現れます。

中央右の何もくわえていない個体。写真:納富祐典

一方、シロアリは、私が知る限り、全員がせわしなくあちこち歩きまわったり、互いの体を掃除しあったりしていて、アリと比べるとじっとしている働きアリというのはとても少ないです。

アリは自分の体を自分で掃除できますが、シロアリは生まれてから死ぬまで1匹で暮らすことがないためか、自分のお尻は自分では掃除できないようで、せっせと互いの体を掃除します。働き者のイメージが強いアリよりも、害虫のイメージが強いシロアリのほうが巣の中では良く働いているように見えるというのは意外かもしれません。

この働かないアリたちは、働けないわけではありません。巣からアリたちを取り出して、働いていなかったアリたちだけのグループと働いていたアリたちだけのグループを作って観察すると、どちらのグループでも働くアリと働かないアリが現れるのです。これを繰り返し、働かないアリだけを取り出していって新しいグループを作っていくと、最終的には全員働けることが確認できます。

働けるにもかかわらず、普段は働かない理由として、他の個体よりも仕事の存在に気付きにくいのではないかと考えられています。気づく前に他の個体が仕事を済ませてしまうので、働く機会がないというわけです。一方で、とても多くの仕事が発生して忙しい時や、他の個体が誰もいない時には働いてくれます。オオズアリの大型アリやシロアリの兵隊アリも、普段は巣の中でじっとしていることが多く、卵や幼虫の世話はしません。しかし、人間が巣を壊したりすると、その武骨な顎で不器用ながらにも卵を頑張って運ぼうとすることがあるそうです。いざという時には不得手な仕事でも頑張ってこなそうとする様子を想像すると、普段研究のためとはいえ、容赦なく巣を壊している研究者として申し訳ない気持ちになります。

働かずに社会を崩壊させるアリ

最も極端な働かないアリとして、アミメアリの大型アリが知られています。上の写真の中央右の何もくわえていない個体です。大型アリと呼んでいますが、実際には少し大きいくらいで初めて見る方には違いが分からないかもしれません。アミメアリは本州から東南アジアにかけて分布し、日本では比較的よく見かけるアリですが、かなり特殊な生活をしており、全ての個体が子どもを産み、育てます。つまり、それぞれが女王アリであり、働きアリでもあるという繫殖分業がない社会なのです。これだけでもアリ業界からすると随分特殊化が進んだ社会に見えますが、このアミメアリの社会に時々、産卵するけど働かない大きなアリ(大型アリ)が紛れ込んでいることが知られています。この大型アリは遺伝的にはアミメアリであるとされていますが、他の個体と違って非協力的で、巣のために働かず、他のメンバーから餌だけをもらって産卵しかしません。先ほどの実験と同様に、このような大型アリだけを巣から取り出して観察しても、やはり働かず産卵ばかりして、大量の卵は誰の世話も受けずにカビだらけになって死んでしまうということが知られています。

野外でも他の個体よりも多く卵を産むので、だんだんと非協力的な大型アリばかりになって、最終的に社会が崩壊しているのではないかと考えられています。大型アリは恐らく、そうなる前に他の巣に忍び込んで産卵して数を増やし、再び社会を崩壊させるということを繰り返しているのではないかとされていますが、今のところ野外でどうなっているかは分かっていません。

他のアリやシロアリでも、社会が終わることがあります。王や女王が死んでしまった場合です。繁殖を担っていた王や女王が死んでしまうと、働きアリたちは自分たちで産卵しようとしますが、女王アリほどうまく産卵できなかったり、労働力が不足してしまったりして、集団が急速に衰えて崩壊します。一方で、種類によっては子どもの中から後継の王や女王が現れて巣を引き継ぐ場合もあり、そもそも不在期間が生じないように複数の王や女王が巣に共存している種類もいます。アリやシロアリの王や女王は20~30年程度生きると考えられている種類もおり、社会の継続の仕組みを持っている種では100年を超えて社会が維持されるでしょう。実際、ブラジル北東部に生息するシロアリの1種は、数百年から4000年もの間1つの巣を継続して使っており、その面積は230,000平方キロメートルにも及んでいると推定されています。

おわりに

アリとシロアリの社会のほんの一部だけを紹介しました。私たち人間と似ているようで違う社会の在り方は参考になる部分もあり、反面教師としたい部分もあり、人々の興味を惹いてやみません。幸いにも、日本には良いアリの図鑑があり、様々な種類のアリが身近なところで暮らしています。運よく結婚飛行のタイミングで、翅を落とした女王アリが1匹で歩いている場面に遭遇できれば、拾って飼ってみることも出来ます。シロアリも同じく、結婚飛行の時期に2匹(王と女王)で歩いているところを捕まえられれば、短期的な飼育は比較的簡単です。しかし、日本に生息する種類が少ないこともあって図鑑が少なく、飼い方の情報もアリに比べると少ない印象です。どちらも飼育する際は、脱走にはくれぐれも注意して、社会が作られていく様子を観察してみてください。

【執筆】
小林和也(こばやし・かずや)
京都大学フィールド科学教育研究センター北海道研究林 准教授。進化生態学を専門とし、様々ないきものの生態とそれらがなぜ進化できたのかを調査している。

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