虫の目線で季節を見る【第13回】水辺を高速で飛ぶハンター ギンヤンマ

春の終わりごろから晩秋にかけて、明るいグリーンの体と空色の斑紋をもつ大きなトンボが水辺を気持ちよさそうに飛んでいるのを見かけることがあります。それがギンヤンマです。

「ヤンマ」と呼ばれる大型のトンボたちの中でも、オニヤンマと並んで知名度が非常に高く、かつては子どもたちの憧れの的でした。

ギンヤンマ

ギンヤンマはどんな昆虫?

ギンヤンマは体長70~80ミリメートルほどの大型のトンボで、頭部(複眼)と胸部は鮮やかな黄緑色、腹部は茶色です。名前に「ギン」とついている理由は、腹部の第3節(付け根から数えて3番目の節)の下部が銀白色だからです。

オスとメスには見た目に大きな違い(性的二型)があります。オスは腹部の付け根周辺に鮮やかな水色の斑紋があるのが大きな特徴で、空中を飛んでいるときにもこの水色の斑紋ははっきりと見ることができます。一方、メスには通常、オスのような水色の斑紋はなく、黄緑色の斑紋があります。しかし、しばしばオスと同様の水色の斑紋をもつ個体も出現します(オス型のメスと呼ばれる)。また、メスは成虫になってから日が経つと、翅が濃い茶色に色づく傾向があります。

ギンヤンマは、北海道から南西諸島まで日本全国に広く分布しており、平地から山地にかけての日当たりの良い開放的な水辺を主な生息環境としています。流れがない、またはごく緩やかな淡水域を好むため、湖沼やため池、水田、流れのゆるい川や水路の周辺で見られます。

環境に対する適応力が高く、自然豊かな環境だけでなく、都市部の公園の池やゴルフ場の池、さらには学校のプールなどでヤゴ(幼虫)が見つかることも珍しくありません。成虫は飛翔力、分散力が強く、発生場所から遠く離れた場所まで移動することも知られていて、新しくできた水辺に突然現れることもよくあります。

ギンヤンマとよく似たトンボに「クロスジギンヤンマ」がいます。

クロスジギンヤンマ

見分ける最大のポイントは胸部です。ギンヤンマの胸部は全体が一様に緑色をしていますが、クロスジギンヤンマの胸部には黒い筋(条線)が入っているため、簡単に見分けることができます。また、クロスジギンヤンマのオスの複眼は青く輝き、腹部は黒く、鮮やかな水色の斑紋が多く散りばめられています。メスは複眼、斑紋ともに黄緑色です。発生時期や生息環境も少し異なり、クロスジギンヤンマは早春から初夏にかけて現れ、林に囲まれた薄暗い池沼や植物の多い小さめの池を好む傾向があります。

ギンヤンマの生活史

ギンヤンマのオスとメスは、水辺の植物などに止まって交尾を終えると、多くの場合、2匹が連結したまま水生植物の茎や組織に卵を産み付けます。

ギンヤンマの連結産卵

ギンヤンマを含むヤンマ科というグループでは、メスが単独で産卵を行うことがほとんどですが、ギンヤンマは例外的に「連結産卵」を標準とする変わり者です。オスが腹端部の把握器(尾部付属器)でメスの後頭部(複眼)をしっかりとホールドし、メスが水草に産卵している間、他のオスに奪われないように警護を続けます。

産み付けられた卵は、およそ1~3週間で孵化して幼虫が現れます。トンボの幼虫は「ヤゴ」と呼ばれ、水中の泥や水草に隠れながら、ミジンコやボウフラ(カの幼虫)、アカムシ(ユスリカの幼虫)といった小さな水生生物を食べて成長します。成長するにつれてヤゴの体はたくましくなり、獲物もオタマジャクシや小魚など、より大きなものへと変わっていきます。

ギンヤンマのヤゴはメダカなどの小魚も捕食する

春に産卵された卵から孵化したヤゴは、日本の温暖な地域であれば、その年のうちに12回ほどの脱皮を繰り返し、45~50ミリメートルほどもある終齢幼虫(もっとも大きくなった状態のヤゴ)へと成長します。

終齢幼虫の体の中ではしだいに成虫の体が形成され、ある日の夜、水草やヨシの茎などを伝って水面から這い上がり、最後の脱皮である羽化を始めます。3~4時間ほどかけて羽化を終えると、ついに成虫、ギンヤンマが誕生します。

ギンヤンマの羽化

羽化したギンヤンマの体はまだ柔らかく淡い色をしており、性的に未成熟な状態です。水辺の近くの草むらや林の周辺を飛んでハエやガ、他のトンボなどの昆虫を食べて数日を過ごすうちに体は硬く、色は美しく輝き、性的にも成熟した状態になります。

ギンヤンマの飛行能力は非常に高く、時速30キロメートル前後の速さで飛べるほか、ホバリング(空中静止)や後退飛行、宙返りなども器用にこなし、飛んでいる他の昆虫を捕らえます。

空中でシオカラトンボのペアを襲うギンヤンマ

捕らえた獲物が小さければそのまま空中で、大きいと付近の植物や地面などに止まってバリバリと食べます。

ウスバキトンボを捕食するギンヤンマ

成熟したギンヤンマのオスは、池や沼など水辺の一定範囲をなわばりとして占有飛翔し、侵入してくるオスを追い払いながら水辺を訪れるメスを待ち構えます。メスを見つけると素早く空中で捕らえ、交尾してから付近の植物などに止まります。

ギンヤンマの交尾

数十分ほどで交尾を終えると、オスとメスは連結したまま水辺を再訪し、水草などに産卵を行います。
こうして産み落とされた卵は再びヤゴとなり、早ければその年のうちに羽化しますが、秋以降に産卵されたものは幼虫のまま水中で冬を越し、翌年の春以降に成虫になります。

おわりに

夏の水辺を軽やかに飛ぶギンヤンマを見かけたら、その姿をじっくりと観察してみてください。鮮やかな緑や青の美しい体を自在に操って宙を舞う姿や、オス同士の激しい縄張り争い、オスとメスの連結産卵など、そのダイナミックな行動や生き方にきっと感激することでしょう。

そんなギンヤンマですが、近年では、都市化や農地環境の変化により、水辺の自然環境が失われ、姿を見る機会が減少している地域もあります。その美しい姿が見られる環境をいつまでも守っていきたいものです。

【写真・文】
尾園 暁(おぞの・あきら)
昆虫写真家。1976年大阪府生まれ。近畿大学農学部、琉球大学大学院で昆虫学を学んだのち、昆虫写真家に。日本自然科学写真協会(SSP)、日本トンボ学会に所属。著書に『くらべてわかる トンボ』(山と渓谷社)『ぜんぶわかる! トンボ』(ポプラ社)『ハムシハンドブック』(文一総合出版)『ネイチャーガイド 日本のトンボ』(同上・共著)など。
X:@PhotomboOzono
Instagram:@akiraozono_photography
ブログ:湘南むし日記

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