猫は、犬に比べて体の不調を外に出しにくい動物です。野生の本能が残っているためか、具合が悪くても弱みを見せまいとする傾向があり、飼い主さんが気づいたころには病気がかなり進行していた……というケースは、決して珍しくありません。
だからこそ、定期的な健康診断が大切になります。
今回は、そんな猫の健康診断で検査する項目と、健康診断に向けて普段から準備できることを紹介します。
健康診断の重要性
猫は人間に比べて成長や老いが早く、猫の1年は人間の4〜5年に相当します(図1)。シニア期(8歳ごろから)に差しかかると、慢性腎臓病や糖尿病、甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍(がん)といった病気のリスクが一気に高まります。しかし、年に1〜2回の健康診断を受けることで体の異常を早期に発見し、治療の選択肢を広げることができます。

「うちの子は元気そうだから大丈夫」と思っていても、検査データはまったく別のことを語っている場合があります。
また、健康診断は病気を発見するためだけでなく、今の体の状態を知るための基準値を作るという意味でも重要です。
一般的な検査の項目
猫の健康診断は動物病院によって異なりますが、一般的には以下のような検査が行われます。
身体検査
体重や体温を測定し、視診・触診・聴診を行います。
体重の変化はとても重要な指標で、ダイエット(減量)をしていないにも関わらず5パーセント以上減っている場合には、病気の可能性があります。また、聴診器で心音や呼吸音を確認し、触診で体表のリンパ節・腹部臓器の腫れや痛みをチェックします。
血液検査
猫の健康診断で最も情報量が多い検査です。血球計算(CBC)では赤血球・白血球・血小板の数や状態を調べ、貧血や感染・炎症の有無などを確認します。血液化学検査では、腎臓(BUN・クレアチニン・SDMAなど)や肝臓(ALT・ALPなど)の機能、血糖値、電解質のバランスなどを評価します(図2)。
また、猫は高齢になると甲状腺機能亢進症になりやすいため、甲状腺ホルモン(T4)を同時に測定することもあります。

尿検査
尿の濃縮具合(尿比重)やタンパク・血液の有無、尿中の結晶(ストラバイトやシュウ酸カルシウムなど)、細菌感染などを調べます(図3)。
猫は腎臓病になりやすい動物ですが、初期にはほとんど症状が出ません。腎機能が低下した場合、血液検査よりも尿検査のほうが早く発見できます。そのため、尿検査は特に重要視されています。

画像検査(X線検査・超音波検査)
X線検査では、臓器の大きさ・形・位置を画像として確認できます。心臓や肺の状態、肝臓や腎臓、膀胱・消化管の異常、腫瘍の有無、骨や関節の状態などを調べるのに役立ちます(図4)。

また、超音波検査では、臓器の大きさや形だけではなく、内部の様子や動きも観察することができます。そのため、心筋の厚さや動き、各臓器のサイズや内部構造を確認して病気を発見することができます(図5)。
その他にも、血圧や眼底検査など、猫に合わせて他の検査を追加することもあります。

日々の生活から準備できること
健康診断をより有意義なものにするために、普段の生活の中でできることがたくさんあります。
体重・食事量の記録をつける
体重は、月に1度でいいので記録しておきましょう。人間用の体重計に猫を乗せることは難しいので、猫を抱っこして体重を測り、その後自身の体重を差し引くことで猫の体重を測定することができます(図6)。体重の変化(特に減少)は、多くの病気で現れるサインのひとつです。食事量の変化も合わせて記録しておくと、体重が変動している理由が見えやすくなります。


飲水量を計測する
高齢猫に多い病気である慢性腎臓病や糖尿病、甲状腺機能亢進症にかかると、飲水量が増えます。定期的に飲水量を計測しておくことで病気を早期発見できることもあります。
気になることは写真・動画に残す
「最近ご飯の食べ方が変わった気がする」「トイレの回数が増えた」「たまに咳をしている」「高いところに登らなくなった」など……。「そんな小さなことまで?」と思うかもしれませんが、これらの情報は健康診断のときに、とても役立つ情報です。症状は病院に連れてきた途端に出なくなることも多いので、気になる様子は写真や動画に撮っておくと獣医師への説明がとてもスムーズになります。
キャリーバッグに慣れさせておく
キャリーバッグで通院する多くの猫にとって、「キャリーバッグ=病院に連れていかれる怖いもの」というイメージが定着してしまっています。普段からキャリーバッグを部屋に出しておき、中においしいおやつを入れたり、お気に入りのタオルを敷いたりして「安心できる場所」として認識させておくと、受診時のストレスが大幅に減ります。
また猫の安心フェロモンを模した製品(図7)をキャリーにスプレーしておくことや、移動中はキャリーを布で覆って暗くする、病院の待合室では他の動物が見えないようにするなどの少しの工夫が、猫のストレスを和らげます。できるだけ刺激を減らすことが大切です。

おわりに
猫は言葉で「どこがつらい」と教えてくれません。だからこそ、定期的な健康診断と日々の観察の積み重ねが、猫の健康寿命を伸ばすことにつながります。
「病院は病気になってから行くところ」という意識から、「定期的に健康チェックをするところ」へ——そう考え方を変えるだけで、愛猫との時間をずっと長く、豊かにすることができます。
今年こそ、ぜひ愛猫を連れて動物病院の扉を開いてみてください。
【執筆者】
服部 幸(はっとり・ゆき)
1979年生まれ。北里大学獣医学部卒業後、2年半の動物病院勤務を経て2005年にSyuSyu CAT Clinic院長を務める。2012年、江東区に東京猫医療センターを開院、院長として猫の専門医療にかかわりつづける。2014年にねこ医学会(JSFM)理事に就任(現副会長)。『ネコにウケる飼い方』(ワニブックス)、『イラストでわかる! ネコ学大図鑑』(宝島社)、『猫を極める本 猫の解剖から猫にやさしい病院づくりまで』(インターズー)など著書多数。
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