猫も犬と同様、オーラルケアをしなければ歯周病になります。最も効果的なオーラルケアは歯磨きといわれるため、飼い主の皆さんも挑戦してみようと思われるのではないでしょうか。しかし、猫では歯周病以外にも痛みを伴う口の病気が比較的よく見られます。若い年齢から見られるものもあるので、歯磨きを始める前に動物病院でお口の状態をチェックしてもらいましょう。
今回は、猫に多い口の中の病気を解説します。猫が見せる病気のサインも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
歯周病
歯周病は、歯に歯石がつく病気ではなく、歯垢内の細菌による感染症です。細菌の感染によって歯肉炎が起こり、体の免疫とのせめぎあいになります。
進行すると、歯肉が下がったり歯槽骨が溶けたりして、歯を支える組織(歯周組織)が破壊され、最終的に歯が抜け落ちます。
歯が抜け落ちてしまえば炎症は落ち着きますが、状態の悪い歯が抜けずに口の中に長くとどまってしまうと、歯根周囲の血管から細菌が出す毒素や細菌自体が血流に乗り、腎臓や心臓などの臓器をはじめとした、全身に負担をかける可能性が示唆されています。
一番歯石がつきやすいのは、上顎の第4前臼歯という大きい歯です。

犬と比べると、猫では奥歯の歯周病で顔が腫れることは少ないです。しかし、犬歯の歯周病で顔や目の周囲が腫れたり、膿が出たりすることがあります。犬と猫では顔周りにでる症状が少し違うので、注意が必要です。
歯周病予防は、犬と同じく歯みがきが大切です。しかし、猫は犬よりも痛みや違和感に敏感で、かつ不快なことには回避行動を取りやすいです。歯みがきのトレーニングは慎重に進めないと、オーラルケアの雰囲気を感じるだけで隠れるようになり、トレーニングがうまくいかなくなります。
猫のむし歯は報告されていないので、トレーニングの時にご褒美として、おやつやフードなどを使うことをおすすめします。ただしその前に、以下にあげるような痛みを伴う状態がないか確認してあげましょう。
若年性歯周炎
1歳に満たない、若い猫にみられる歯周炎です。歯が生えそろったばかりの7ヶ月齢ごろから見られることがあります。この年齢では歯垢や歯石は成猫より少ないにもかかわらず、歯肉に炎症が強く見られます。飼い主さんに聞くと、「そういえば同居の猫よりも口臭が強いと思っていた」という話もよく聞きます。
シャムやメインクーンなど好発品種があることから、遺伝的要因が考えられます。また、発育期のウイルス感染などで免疫バランスが崩れ、免疫が過剰反応することで起こるとも考えられています。個人的には、好発猫種よりも、幼若期に外ネコの親に育てられて保護されたという経歴の猫で、比較的よく見るように感じます。
この疾患は、麻酔下でのスケーリングや、オーラルケアなどでプラークコントロールをしていくと、2歳くらいで炎症が落ち着く場合もあるといわれています。しかし、うまくいかないと、若いうちから重度の歯周病や口内炎などに進行していきます。



愛猫が若いうちは、口の中が痛むような病気があると考えることが少なく、歯磨きに挑戦してみようと思う飼い主さんも多いと思います。しかし、この疾患を持っている猫では、1歳未満であってもすでに歯周炎が起きていて、口を触れられると痛がる可能性もあります。オーラルケアを始める前に、動物病院で口の状態を見てもらいましょう。
咬合性外傷
歯のかみ合わせや顎の形態によって、口の中の粘膜に傷がつく状態のことです。さまざまなパターンがありますが、近年多く見るようになったと感じるのが、上顎第4前臼歯の先が下顎の唇則の歯ぐきに当たる、または刺さって炎症を起こすものです。詳しい原因は分かっていませんが、マンチカンや短頭種の猫で多く見られるように思います(ただし、中頭種や日本猫で見られることもあります)。

軽度のものでは炎症はなく、下顎の唇側の歯ぐきに窪みができる程度ですが、重度になると炎症が起き、歯周病や歯肉が腫瘍のように盛り上がってしまうことがあります。
これも痛みを伴うため、歯みがきなどは難しいでしょう。また、原因は物理的に歯が当たっていることなので、歯磨きなどのオーラルケアで改善できるものではありません。
吸収病巣
最近は、この病気の名前を知っている飼い主さんが増えてきたように思いますが、これは歯の付け根(歯肉縁)から歯が吸収されて穴が開いてしまう病気です。
歯に穴が開くという現象はむし歯に似ていますが、むし歯菌は関与しておらず、破歯細胞によって自分で自分の歯を破壊してしまいます。吸収された場所は肉芽に置き換わります。



詳しい原因はわかっていませんが、猫でよく見られ、歯がピンクや赤色になっているという理由で来院されることもあります。複数の歯で見られることも多く、犬歯で見られることもあります。
歯の付け根から吸収が始まるため、初期症状では一見、歯肉が赤い=歯肉炎のように見えることもあります。しかし、吸収病巣であれば、歯が吸収され始めることで知覚過敏になったり、歯に穴が開いていれば歯磨きで触れられると痛みを感じます。これも歯磨きの前に確認しておくべきでしょう(ただし、歯石が付着している歯や歯の裏側で起きていると、麻酔下ではない一般診察で全てを見つけることは難しいかもしれません)。
口内炎
痛そうな口の病気としてよく知られているのは、人でもおなじみの口内炎だと思います。初期段階では頑張ってご飯を食べているため、なかなかわからない場合もあるかもしれません。いつもよりよだれが多い、口臭があるなどがあれば、一度動物病院で診てもらいましょう。
おわりに
その他にも、痛そうに見えて意外と痛がらない無痛性潰瘍、持続する軽度の歯肉炎により犬歯が伸びる挺出、飛び降りた衝撃による犬歯の破折、高齢になると扁平上皮癌などの頭部や顎の腫瘍が見られるなど、犬と猫では口の中でよく見られる病気は少し違います。また、猫で多い口の中の病気では、まだ原因が解明されておらず、歯を抜くということが治療法になるものも多くあるのが現状です。

歯磨きなどのお家でのオーラルケアは大事です。しかし、ケアができるかできないかではなく、猫の口の中の状態に関心を持ち続け、家や病院で適切な処置を行い、痛みなどによる苦痛から猫ちゃんを守ってあげることが重要です。
家庭で愛猫の口をしっかりと見ることは、なかなか難易度が高いかと思います。多くの口の病気では、口臭がみられます。愛猫の口が臭いかも? 他の子と違うかも? そう思ったら動物病院で診察を受けてみることをおすすめします。
【執筆者】
竹内眞弓(たけうち・まゆみ)
獣医師。2002年日大生物資源科学部 獣医学科卒業。勤務医、雑誌編集などを経て、現在、成城こばやし動物病院(東京都世田谷区)に所属。小動物歯科研究などで学び、歯科治療に取り組む中で、重度の歯周病になる前の治療の重要性を痛感している。
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