野生動物の法獣医学と野生動物医学の現状【第38回】急増する建物へのバードストライクの背景と啓発

これまで、身近な住居の窓ガラスに鳥類が衝突するバードストライクについて触れていませんでした。法獣医学や野生動物医学に身を投じているとよく遭遇する現象なので、本来であればイの一番に提示すべきでした。遅ればせながら、その一例を扱います。

建物へのバードストライクに注目した背景

本連載で言及していない事例は他にも残っていますが、この事案を今回選んだのには理由があります。
2026年5月10日に、環境省から環境省自然環境局長賞をいただきました。受賞の理由は、北海道北部の風力発電風車で見つかった希少猛禽類死体の法獣医学的解析が、環境保全に貢献したからでした。
https://www.env.go.jp/content/000219747.pdf

この賞を私が受賞したことを、猛禽類の保護活動をする国外獣医科大学生が知り、受賞式の2か月後に、希少猛禽類死体の解析をした施設(図1)の見学をしに来日しました。その行動力には驚かされました。

図1.酪農学園大学野生動物医学センターWAMC建屋(現在は保護犬猫不妊処置等別目的に転用されたようである)

そんな彼から、台湾の台北(タイペイ)や高雄(カオシュン)などの都市では高層ビルが乱立し、それらの窓に希少猛禽類を含むおびただしい数の野鳥が衝突死しているという話を聞きました。

台湾でのそのような事実は全く知りませんでしたし、台湾では鳥類による建物などへの衝突事故を総称して、「窓殺」(台湾の繁字体では「窗殺」)と表現するそうです。
初めて知る事実と単語を耳にして初心に立ち返り、私が経験したバードストライクの事例を紹介するべきだと考えました。

鳥類が窓ガラスに衝突する理由

私が勤めていた酪農学園大学のキャンパスは、野幌森林公園という森林に隣接しています。飛行する鳥類が建物に衝突するのは、このような木々が建物の窓ガラスに映り、「まだ森がある」と勘違いすることで起きるとされます(図2)。

図2.校舎窓ガラスに木々が映る様子

ある建物ではアオバトばかり、別の場所ではツツドリが立て続けに、といったように、種/個体によって衝突しやすさは異なるのかもしれません。
恒久的な対策として、日本野鳥の会では、窓ガラスに地面が映るようにする方法を採用していますが、様々な事情で実現が難しいのが現状です。

大学校舎の窓ガラスに衝突した負傷個体は、野生動物医学センターに運ばれていました。学生たちの献身的なケアは忘れられませんし、そこで培った経験が、鳥類臨床を目指すきっかけになった学生もいました。

バードストライクは網戸でも

「森が続くと勘違いして」衝突することはわかりましたが、ガラスが覆われ、木々が映り込まないようにしたら衝突しなくなると思いますか?

前述した風力発電風車の衝突と重なりますが、鳥類はそもそも障害物が無い空間を飛翔するように適応進化したので、飛翔経路に障害物があると予測することが出来ず、建物に衝突するとも考えられています。実際に、木々が映らない網戸にも激突していました(図3)。もしこれが正しければ、前述の窓ガラスを斜めにして地面が映るようにする作戦も意味をなしませんね。

図3.網戸に激突死したシロハラ。吉野智生ら、窓へ衝突死したシロハラの一例、北海道野鳥だより、(167): 4-5、2012年、https://rakuno.repo.nii.ac.jp/records/304 より改変

夜間照明のため幻惑諸突死

これまでのバードストライクとは少し異なる例も紹介します。

私が暮らす北海道道央地方にあるパチンコ店の駐車場に、アカエリヒレアシシギというチドリの仲間の幼鳥死体が散乱していました(図4)。夜間に移動する旅鳥で、内陸で見つかるのは珍しいです。きっと、その夜は休息する場所を探していたのでしょう。

死体の外観および体内部の状態(頸部から胸部の皮膚裂傷、くちばしの破損、あるいはその根元の血液付着、胸腹腔内の凝血塊、頭骨損傷と左翼上腕骨折など)から、物理的な衝突が示唆されました(図5)。生態・行動から鑑みるに、施設の夜間照明に引き寄せられたから、あるいは窓ガラスにその光が反射して視界不良になったことによる衝突と目されました。これと類似した現象は、野球のナイターでも起きることがあり、試合が一時中断されたことを聞いたことがあると思います。

図4.アカエリヒレアシシギの死体
図5.図4における、くちばしの損傷(左)や胸腹腔内出血(右)の様子

おわりに

普通種の野鳥における身近な建物への衝突、すなわちバードストライクの事例を紹介しました。経済活動の優先は認めるとしても、法獣医学的な視点で解析すれば、犠牲になる個体数をかなり減らすことが出来ると感じています。
次回は、今夏に起きた海鳥と白蛇の大量死を紹介します。

【執筆者】
浅川満彦(あさかわ・みつひこ)
1959年山梨県生まれ。酪農学園大学名誉教授、獣医師、野生動物医学専門職修士(UK)、博士(獣医学)、日本野生動物医学会認定専門医。野生動物の死と向き合うF・VETSの会代表として執筆・講演活動を行う。おもな研究テーマは、獣医学領域における寄生虫病と他感染症、野生動物医学。2026年5月に環境省自然環境局長賞受賞。主著『野生動物医学への挑戦 ―寄生虫・感染症・ワンヘルス』(東京大学出版会)、『野生動物の法獣医学』(地人書館)、『図説 世界の吸血動物』(監修、グラフィック社)、『野生動物のロードキル』(分担執筆、東京大学出版会)、『獣医さんがゆく―15歳からの獣医学』(東京大学出版会)、分担執筆分として『新獣医学辞典』、『犬の内科臨床Part2』、『神の鳥ライチョウの生態と保全』、『獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠寄生虫病第3版』(以上、いずれも緑書房)、近刊として『 君たちの保全医学―地球環境を守るために知り・学び・変わる』(文永堂)。
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