フォトエッセイ 猫に呼ばれて世界の街へ【第40回】『アテナスという猫』(ポルトガル)

今回は、ポルトガルのある村で出会った、印象的な三毛猫を紹介します。

その猫の名前は「アテナス」です。アテナスは、私が思い描く「猫って、こうだよね」というイメージそのままの猫です。

人にまったく媚びず、自由気まま。マイペースで、常に自分が快適だと感じる場所で過ごす猫です。気分が乗らないときは、飼い主さんに呼ばれても知らん顔。むしろ、名前を呼ばれるたびに、少しずつ飼い主さんから離れていきます(笑)。でも、人が嫌いなわけではありません。

お日さまが好きで、日当たりのいい場所を見つけてゴロゴロと過ごし、暑くなったら風通しのいい日陰に移動する。ひとりになりたいときは、ひとりになる。苦手な猫には近づかない。誰かに合わせることはなく、そのとき自分がしたいことに正直に生きているように見えました。そんなアテナスを見ていたら、もう少し自分の気持ちに素直になってもいいのかもしれない、と自分のことを振り返ってしまいました。

あるとき、アテナスが私のほうを振り返りながら歩き始めました。「ついてきて」と言われているような気がしたので、後をついていくことに。しばらくすると、どんどん道が細くなっていきました。「こんなところを行くの?」と思っているうちに、獣道のような細い道へ入っていきました。

やがて、私の背丈くらいまで草が生い茂る場所に出ました。足元を見ると、かすかに道のようなものが続いていますが、その先へ進む勇気がありませんでした。するとアテナスは、戸惑う私のことなど気にする様子もなく、草むらの中で気持ちよさそうに寝始めました。

あとから聞いたところ、その道を草をかき分けて進むと教会があったそうです。もしかしたらアテナスは、「私はここで寝ているから、教会にでも行ってきなさい」と言っていたのかもしれません。もちろん、本当のところは分かりませんが、アテナスならそんなことを考えていてもおかしくないような気がします。気が向けば人をどこかへ案内することもある。そんなところも、猫らしいなと思いました。

実はその後も、アテナスは人を導いてくれました。8~9月にかけて東京と大阪で開催した写真展「ここにいる」では、アテナスの写真を大きくプリントして展示しました。

アテナスに引き寄せられたのか、たくさんの方が会場へ入ってきてくださいました。旅先では私を案内してくれたアテナスが、今度は次々とお客さんを会場へ連れてきてくれたのです。

写真でも人を魅了してしまうアテナス。気が向いたら、またどこかへ連れていってね。

【文・写真】
町田奈穂(まちだ・なほ)
写真家。水中写真家・鍵井靖章氏との出会いをきっかけにカメラを始める。世界各地で出会った猫たちを通して、その土地ならではの空気感を捉える独特の視点と、印象的な色彩表現が特徴。これまでに40ヶ国以上を訪れ、2023年には世界一周を達成。富士フイルムフォトサロン 東京・大阪をはじめ、多数の個展を開催。2026年8月、写真集『CINEMATIC』を刊行。過去には、パワーリフティング世界ジュニアチャンピオンの経歴も持つ。
Instagram:cat_serenad
X:naho_umineko

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