みなさんは「ケンムン」をご存知でしょうか? 奄美群島に伝わる森や水辺の精霊で、ガジュマルの木に住み、人間に自然との関わり方を教えたり、危険な場所から遠ざけたりする森の守り神です。まさに自然度の高さの象徴的な存在です。ケンムンが暮らす森には多くのいきものが暮らしていて、世界的に見てもこの場所でしか出会えない固有種が多く生息しています。
カエルも例外ではありません。種類も数も多いです。今回紹介するのは、奄美群島の多種多様なカエルの1種、オットンガエルです。

精霊の鳴き声の正体?
「オットン」とは奄美大島の方言で大きいという意味を指します。奄美大島と加計呂麻島の森に暮らしていて、10~14センチメートル程に成長するかなり大型で茶色っぽい、ずんぐりとしたカエルです。鹿児島県の天然記念物で、環境省のレッドリストの絶滅危惧ⅠB類に指定されています。

繁殖は4~8月にかけて行われます。水辺にオスが平たく薄い皿のような巣を作り、メスを誘い産卵します。産卵期になると、オスは「グウォン」という特徴的でとても大きな声で盛んに鳴きます。静寂な森に突然響き渡る大きな声。奄美の森を初めて訪れた時、これがケンムンの鳴き声だとハブ取り名人から教わったことを今でも覚えています。

成体と幼体の特徴的な形態
また、このカエルは少し変わった形態をしています。カエルの前脚は4本指が基本形なのですが、このカエルには指がもう1本あります。普段は皮膚に埋もれていますが、オス同士の闘争のときなどに利用されることがあるようで、喧嘩中に指先の小さな穴から棘状の突起が突き出てきます。非常に恐ろしいですね。
それから、オタマジャクシがとても大きく成長することが知られています。全長8センチメートルに達する個体もおり、同所的に暮らしていたシリケンイモリよりも大きく見える、大型の個体に出会ったこともあります。幼生のまま越冬するためだと思いますが、その大きさには圧倒されます。夜の森の湿地で見つけたら、ケンムンというよりもヒトダマにしか見えません……。
奄美の森の素晴らしさと自然度の高さには、いつも感動させられます。

【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(サワガニ、スッポン、田んぼのいきもの、カナヘビ、小型サンショウウオ、ニホンイシガメ、ニホンヤモリ、トカゲ、イモリ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、オオサンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。
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