フォトエッセイ 猫に呼ばれて世界の街へ【第25回】地中海をのぞむ、多様な文化の交差点(チュニジア)

5月にチュニジア旅をしてきました。滞在日数の関係で、首都チュニスを起点に、スース、カイルアン(ケルアン)など、北側の街を中心に巡りました。サハラ砂漠が広がる南部までは足を伸ばすことはできませんでしたが、じゅうぶんに異国風情と独特の魅力に触れることができたと思います。

チュニジアは、北アフリカの真ん中あたりに位置しています。地中海に面しており、海を挟んだイタリアは目と鼻の先です。

公用語はアラビア語ですが、かつてのフランス統治の影響でフランス語も広く使われています。標識や看板、メニューなどはたいていアラビア語とフランス語の二言語表記で、英語表記はあまり見かけませんでした。

景色にも、アフリカとヨーロッパが混ざり合うような不思議な雰囲気がありました。地中海地域らしい青や白を基調にした建物が続き、アフリカにいることを忘れそうになることもありましたが、よく目を凝らしてみると、イスラム建築ならではの幾何学的な装飾も共存していました。

首都チュニス近郊の人気観光地「シディ・ブ・サイド」は、その青と白の世界が特に際立っていました。「チュニジアン・ブルー」とも呼ばれる青と白の町の向こうには、地中海の青がまぶしく広がっていました。

チュニジア沿岸部はリゾート地として親しまれ、ヨーロッパからたくさんのバカンス客も訪れます。
これから迎えるハイシーズンに向けて、壁を白く塗り直していました。猫たちもその様子をじっと見守っているようです。

海に面しているので、漁港で漁師さんが猫に魚のお裾分けをする光景も見ることができました。近づいてくる船の音で集まってきた猫たちに、漁師さんが手慣れた様子で小魚を投げる、そのさりげないやりとりにあたたかみを感じました。

各都市にある「メディナ」と呼ばれる旧市街の中には、スーク(市場)がたくさんありました。迷路のような細い道に衣料品や食品、食器、スパイスなどの店がひしめき合い、人々の暮らしや文化を肌で感じることができました。

ここでも、猫たちは自由気ままに過ごしています。驚いたのは、お皿の中で眠る猫です。馴染みすぎていて、猫がいることに気づくまで少しかかりました。(写真のどこに猫がいるかわかりますか?)

人通りの少ない狭い路地でのんびり過ごす猫もいれば、車や屋根の上、ベランダ、屋上を通り道として活用していて、それもまたこの国らしさのように感じられました。

チュニジアは、アフリカとヨーロッパ、アラブの文化を感じられる独特な場所でした。異なる文化が折り重なる風景のなかでも、猫たちは自然に溶け込み、伸び伸びと暮らしていました。

【文・写真】
町田奈穂(まちだ・なほ)
猫写真家。水中写真家・鍵井靖章氏との出会いをきっかけにカメラを始める。「猫×彩×旅」をテーマに、世界中を旅しながら各地で出会った猫たちを撮影。これまでに35ヶ国以上を訪れ、2023年には念願の世界一周を果たす。2023年、2024年に富士フォトギャラリー銀座にて個展を開催。その他企画展やSNS等を通じて作品を発表している。
Instagram:cat_serenade
X:naho_umineko

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