フォトエッセイ 猫に呼ばれて世界の街へ【第26回】暮らしのそばに猫がいて(チュニジア)

前回は、チュニジアの白と青のまぶしい街並みを紹介しましたが、目に映る色彩はそれだけではありませんでした。そして心に残ったのは、風景のあちこちに猫たちの居場所があったことです。

イスラム教において、猫は敬愛される存在だといわれています。預言者ムハンマドが猫好きだったという逸話も残っているほどです。このように、イスラム文化の中では、猫は昔から大切にされてきたようです。
モスクの周りにも、猫たちの姿がありました。親子の猫がくつろいでいるその道は、子どもたちの通学路でもありました。祈りと日常が交わるその空間に、猫たちも自然に溶け込んでいました。

ある路地では、毛色も大きさもさまざまな子猫たちが、固まってスヤスヤと眠っていました。複数の母猫が一緒に子育てをしているようで、近くには水やごはん、寝床が用意されていました。町の人たちが、猫が安心して子育てできる環境を整えてくれていました。

入場料を払って入るような立派な観光施設の中にも、当然のように猫がいました。係員さんの足元に、しっぽを立ててすり寄っていました。その甘え方からは、猫がその係員さんのことをとても信頼しているのが伝わり、微笑ましくなりました。そして、猫に愛されながら働けるなんて、うらやましくもありました。そういえば、以前訪れた同じく北アフリカにあるモロッコでも、似たような場面を見かけました。人のすぐそばで猫がマイペースに過ごす風景は、この地域ならではなのかもしれません。

カフェの屋上席では、「タイガー」という名前の猫が気ままに過ごしていました。ときどき近所の猫もふらりと現れ、思い思いにくつろいでいきます。景色が良く、開放感のある屋上は、人にも猫にも人気のスポットでした。

スーク(市場)では、商品のあいだに上手に紛れ込んでいました。どんなものが売られているのか覗き込もうとすると、猫と目が合う……。そんなことが何度もありました。

ほかにも、閑静な住宅街や

特徴的な模様が施されたドアの前、

ブーゲンビリアの花が咲きこぼれるお店の前など、

どんな場所でも、猫たちはチュニジアの日常風景に溶け込んでいました。

ある朝、海辺を散歩していると、空に鳥の群れが飛んでいくのが見えました。おそらくフラミンゴだと思います。ゆっくりと羽ばたく姿が、朝焼けの空にすっと溶けていくようでした。旅するフラミンゴたちに、思わず旅の途中の自分を重ねてしまいます。

このように、日本の自然の中では見ることのできないいきものに思いがけず出会えるのも、旅の楽しさのひとつです。
でも、やっぱり心に深く残っているのは、猫たちとの出会いでした。
縛られず、急かされず、自然体で過ごすチュニジアの猫たち。そんな彼らに、少しだけ憧れに似た気持ちを抱いていたように思います。
祈りと暮らしのそばで、人とともに生きる猫たち。その姿に、イスラム文化が育んできた穏やかで温かな関係がにじんでいるようでした。

【文・写真】
町田奈穂(まちだ・なほ)
猫写真家。水中写真家・鍵井靖章氏との出会いをきっかけにカメラを始める。「猫×彩×旅」をテーマに、世界中を旅しながら各地で出会った猫たちを撮影。これまでに35ヶ国以上を訪れ、2023年には念願の世界一周を果たす。2023年、2024年に富士フォトギャラリー銀座にて個展を開催。その他企画展やSNS等を通じて作品を発表している。
Instagram:cat_serenade
X:naho_umineko

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