猫好きさんにおすすめスポット【第25回】山形:猫の宮 ついてくる猫

記事を執筆している私のすぐ左に1匹の猫。キーボードをたたく私の左腕に小さなおててを添えて、手を放すまいと、不自然な姿勢を保ちながら無理くり寝ている姿がなんともいじらしい。私室で仕事をしているときも、片時も離れません。猫は気まぐれといわれますが、大事にしていると思いがけない愛情を見せてくれるものです。そんな猫が覗かせる人への愛情を猫伝承の中に見つけた時、時代が変わっても猫は変わらないのだと気づかせてくれます。

今回紹介するのは、山形県置賜(おきたま)地方の「猫の宮」。日本各地に「猫の宮」がありますが、このお宮さんは全国的にも有名な猫伝承が伝わる史跡の1つです。

猫の宮

夫婦と村を救った猫

延歴年間(782~806年)、置賜地区高安(現在の猫の宮のある土地周辺)の庄屋(しょうや:村の長)夫婦が、猫を授かりたいと願をかけておりました。2人には子どもがいなかったので、猫と暮らそうと何度も貰ってきましたが、なぜか猫が家出したり、死別してしまったり、1年以上猫と共に暮らすことができませんでした。

ある満月の夜、夢枕に観音様が立ち、お告げを残されました。

「与えた猫を大切に育てなさい。さすれば養蚕が盛んになり、村に安泰が訪れるでしょう。」

その後、授かった猫は「玉」と名付けられ、丈夫に育っていきました。庄屋夫婦も大変かわいがり、夫婦の家に居ついたそうです。

月が経つにつれ、不思議なことが起こりました。
庄屋の奥さんがどこに行くにも猫がついてきて、離れないようになりました。厠(かわや)で用を足すときにもそばに駆け寄り、終わるまで待っているのです。その度に、猫は何かを狙うかのような鋭い眼光でにらみをきかせていました。

それからというもの、奥さんの体調不良が続き、庄屋の主人はその原因が猫にあるのではと考え始めました。ある日、この違和感に耐え切れなくなった主人は、隠し持っていた刀で猫を切り捨ててしまったのです。切り落とされた猫の首が天井裏に飛び上がると、奥から悲鳴が聞こえました。天井裏をのぞき込むと、そこには息絶えた大蛇の姿がありました。大蛇の首には、猫の首がしっかりと噛みついていたのです。
大蛇の正体は、過去に犬に退治された古狸の怨念でした(隣接する「犬の宮」伝承を参照)。猫は観音様の化身であり、庄屋夫婦を守るために片時も離れなかったのです。

犬の宮

猫の忠義を理解した庄屋の主人は涙ながらに後悔し、手厚く葬りました。そして、その恩に報いるために、「猫の宮」と称した観音堂を建てて供養しました。それから、村人たちも猫を大切に育てるようになり、観音様のお告げの通り、養蚕が盛んになった村は安泰になりました(猫は蚕を食べるネズミを捕らえるため、重宝されていた)。

おわりに

物語にも出てきたように、「猫の宮」には「犬の宮」が隣接しています。犬の宮では、役人に化けた古狸を退治した2匹の犬が祀られています。現在の猫の宮と犬の宮は、どちらも愛猫・愛犬たちの健康や冥福を祈る言葉と写真であふれています。

猫の人に対する愛情が変わらないように、猫を大切にする人の気持ちも変わらないと信じています。

猫の宮(上)と犬の宮(下)には、参拝に来た人たちの愛猫・愛犬の写真が貼られている

[参考文献]
・猫の宮案内板
・沢渡吉彦 編、『日本の民話6 出羽の民話』、未来社、pp.22-23、2015年

【執筆】
岩崎永治(いわざき・えいじ)
1983年群馬県生まれ。博士(獣医学)、一般社団法人日本ペット栄養学会代議員。日本ペットフード株式会社に就職後、イリノイ大学アニマルサイエンス学科へ2度にわたって留学、日本獣医生命科学大学大学院研究生を経て博士号を取得。現在は麻布大学獣医学部寄付講座ペットケア&ニュートリション研究室 特任准教授。専門は猫の栄養学。「かわいいだけじゃない猫」を伝えることを信条に掲げ、日本猫のルーツを探求している。〈和猫研究所〉を立ち上げ、SNSなどで各地の猫にまつわる情報を発信している。著書に『和猫のあしあと 東京の猫伝説をたどる』(緑書房)、『猫はなぜごはんに飽きるのか? 猫ごはん博士が教える「おいしさ」の秘密』(集英社)。2023年7月に「和猫研究所~獣医学博士による和猫の食・住・歴史の情報サイト~」を開設。
X:@Jpn_Cat_Lab

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