あの鳥のここがたまらない!身近な野鳥の偏愛観察記【第1回】ツバメは三角定規

はじめまして! 本連載は、身近な野鳥たちの「推しポイント」を、自然ガイドの僕が偏愛を込めて紹介していく連載です。
第1回は、凛々しい姿で日本の空を舞うツバメです。

もし、ツバメが人間に転生したら……。

先日、電車でのことです。シュッとしたビジネスパーソンが乗ってきました。見た瞬間に「ツバメみたいだ」と思いました。
パリッとしたシワのないシャツに身を包んだ、贅肉とは無縁そうなスリムな体型にピンとした背筋。燕尾服を着せたらそのまま飛んで行ってもおかしくないほど精悍な姿でした。その日は朝から暑く、周囲にはハンディファンを回している人もいるほどでしたが、このツバメ氏は汗ひとつかかずに直立していました。

僕が住んでいるのは関東平野の真ん中です。山は遠くに見える程度ですし、高層ビルは存在しないので空がとても広いです。
そんな空を眺めていると、シュン! と横切る鳥を見かけます。

翼のカタチは「暮らしのカタチ」

この翼を広げたときのフォルムを見てください。芸術的だと思いませんか?

ツバメの最大の魅力は、何といってもこのシャープなシルエットだと思います。翼を広げて滑空する姿は、まるで三角定規が飛んでいるようです。細長く尖った翼がスッと空気を切り裂いて、爽やかで軽やかな飛行姿です。そんなイメージから、電車で出会ったビジネスパーソンがツバメに見えたのでした。

さて、どうしてこの形をしているのでしょうか。秘密は、彼らの暮らしにあります。

ツバメは、空を飛ぶ虫を食べています。地上に降りてきてパンクズをついばむことはせず、自分自身が飛びながら飛んでいる虫を捕まえる完全空中仕様です。加えて、季節の変わり目には、日本と台湾やフィリピンを行き来する「渡り」という大きな行事があります。その距離は約2,000〜3,000キロメートルの旅です。
こうした空中生活を可能にするのが、尖った翼です。これは、空気抵抗を抑えてスピードを出すのに適した形と言われています。たしかに、人間が作る戦闘機やジェット機などスピード重視の機体は、三角形の尖ったデザインになっているように思いませんか?

視点を空から地上へ移しましょう。きっとスズメがいるのではないでしょうか。スズメの翼は万能型です。地面に降りてきたり、屋根から屋根へひょいと移動したり、くるっと向きを変えたり、細かく上下に動いたりと、小回り重視の生活スタイルです。翼を見てみると、どこか丸っこいシルエットをしているように見えます。(半円分度器みたいだと思っています。)

鳥に限らず、いきものは暮らし方に合わせた姿をしています。無駄はなく、理由があります。

ツバメが低く飛ぶと雨が降る?

普段は高い空をのびのびと飛んでいるツバメですが、たまに低いところを飛んでいることがあります。「どうしたツバメ氏。二日酔いか?」と心配してしまうこの光景。これにも理由があります。
原因は、ツバメの主なエサである虫にあります。

晴れた日の虫たちは、高いところを飛ぶので、ツバメも高く舞い上がります。一方で、雨が近づいて湿度が上がると、虫たちは空気の重さで低い位置に移動します。それに合わせてツバメも飛行高度を下げます。
ということは、ツバメが飛ぶ高さでちょっとした天気予報ができてしまうのです! ぜひ、雨の日と晴れの日で変化する飛行高度チェックしてみてください。

駅のホームも自然観察スポット

野鳥は、身近に出会える野生生物です。彼らが生き抜くために最適化した姿や機能が、結果として「美」になっていると感じます。くちばしの形や目の位置、体の模様にも機能美が隠されていると思います。
僕にとっては、駅のホームも待ち合わせのちょっとした時間も大切な自然観察の時間です。どんな秘密が隠されているのか、想像しながら観察をする時間が至福です。

これからも、身近に暮らす鳥たちの「推しポイント」をお届けしていきます!

【文・イラスト・写真】
くますけ
子どもたちに自然の楽しさをやわらかく伝える専門家。自然ガイド歴17年。関東平野の真ん中で筑波山を眺めながら、すくすくと育つ。20代最後の挑戦で、体験型環境教育を実践するホールアース自然学校へ転職。柏崎・夢の森公園での勤務を経て独立。ふざけすぎないくだけ方で行政・企業・先生のウケがいい。おうち時間が増えたのをきっかけにイラストを描き始め、公園や庭で見られる自然の「へぇ!」という発見や「そうそう!」と言いたくなるネタをSNSで発信している。著書に「エナガの重さはワンコイン」(山と渓谷社)。
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