9月になると、郊外の田んぼでは稲の刈り取りが始まります(図1)。新米の炊きあがりの食感と甘味が楽しみになる季節です。
そんな稲刈りをしている田んぼでは、カラスをよく目にします。彼らも新米が楽しみなのでしょう。
今回は、日常ではあまり意識しない、カラスと新米について考えてみます。

新米の季節にカラスはやってくる
米好きの人はみんな喜ぶ新米。その新米を最初に口にするいきものはカラス類、サギ類、スズメ類などです(図2・3)。

コンバインで刈り取りをすると、物理的衝撃でお米が田んぼに散ってしまいます。
機械化以前の手刈りの時代も、刈り残しなどがありました。それを老人と子どもが田んぼの隅々まで目を配り、拾い集めていました。それを「落穂拾い」といいます。「粒粒辛苦」の思いで育てたお米は、一粒たりとも無駄にできません。
現在、その「落穂(飛散米)拾い」をするのは野鳥、特に利口なカラスです。コンバインの後をついて歩けば、飛び散った新米にありつけることをよく知っているのです。
「落穂拾い」をするのは何カラス?
ところで、「落穂拾い」をするのは何ガラスだと思いますか?
普段見かけるカラスであるハシブトガラス(図3)とハシボソガラス(図4)のうち、「落穂拾い」をするカラスのほとんどはハシボソガラスです。木の実などを好むので、食性にも合うのでしょう。


研究の一環で、この時期のハシボソガラスの胃を覗いてみましたが、お米でいっぱいでした(図5)。また、嘴(くちばし)の先端に注目すると、小さな米粒をついばむにはハシブトガラスよりハシボソガラスのほうが適していそうです。ハシボソガラスの嘴のほうがまっすぐで、箸のように先がきちんと合う印象です(図3、4)。どちらもカラスと呼ばれますが、食性の違いによって嘴の形が変わっています。

カラス以外の「落穂拾い」をする野鳥
「落穂拾い」をする野鳥で最近目につくのは、サギ類です。サギといえば、川辺で小魚や小型の両生類をエサにするものと思っていたのですが、刈り取り後の田んぼで落穂拾いをする姿を目にすることが多くなりました(図6)。よく観察すると、サギの嘴の先端もそろっています。自分の嘴が落穂ひろいに合うことを学習したのでしょうか。

おわりに
野生動物たちは、人間の作ったものが効率良くありつけるエサであることを簡単に学びます。クマやイノシシの問題も、本質は田んぼで見かけるカラスやサギと同じことかもしれません。野生動物と付き合っていく上で生じる課題の多様性と深さを、カラスと新米からしみじみと考えさせられます。
野鳥の命をつなぐ役割を考えると、データ上ではもったいないと感じる飛散米も、意味のあるものに思えます。
【執筆者】
杉田昭栄(すぎた・しょうえい)
1952年岩手県生まれ。宇都宮大学名誉教授、一般社団法人鳥獣管理技術協会理事。医学博士、農学博士、専門は動物形態学、神経解剖学。実験用に飼育していたニワトリがハシブトガラスに襲われたことなどをきっかけにカラスの脳研究を始める。解剖学にとどまらず、動物行動学にもまたがる研究を行い、「カラス博士」と呼ばれている。著書に『カラス学のすすめ』『カラス博士と学生たちのどうぶつ研究奮闘記』『もっとディープに! カラス学 体と心の不思議にせまる』『道具を使うカラスの物語 生物界随一の頭脳をもつ鳥 カレドニアガラス(監訳)』(いずれも緑書房)など。

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